第64話琴葉との朝

「ん……」


 朝か…どうして月曜日の朝というものはこんなに憂鬱になってしまうのか。


「……」


 布団の中は素晴らしい、いつ何時どんな季節だろうと絶対に俺を離してくれない。が、それがいい。一生この中から出たくな────ん。

 琴葉は軽く俺に抱きついている。


「お兄ちゃん、おはよー!」


「あ、あぁ…」


 琴葉は元気よくおはようを言った。

 …寝起き姿の琴葉、なんかえ───な、何を考えてるんだ俺は、違う違う。

 昨日はあんまり意識してなかったけどクマの絵が描かれたパジャマなんて着てたのか…

 そんな元気で可愛らしい空気から一転、少しだけ重たい空気になった。

 

「お兄ちゃん、昨日のこと忘れてないよね?」


「はい…」


「今度埋め合わせしてね」


「…わかった」


「……」


 琴葉は俺に抱きついて寝た体勢のまま動かない。


「こ、琴葉?」


「何?」


「何って、その…離れないのか?」


 寝ている間に抱きついてしまうのは仕方ないにしろ起きたのなら離れるのが相場だ。兄妹とはいえ一応男女なわけだし…


「別にまだ時間あるし」


「そういう問題じゃなくてだな…」


 琴葉には恥じらいというものがないのか…?それとも兄妹だからそんなに意識してないのか…あるいは既にそれ以上の経験をしている…!?


「なんか勘違いしてそうだから言うけど、私彼氏作ったことないし作る予定もないからね」


「そ、そうか…」


 兄である俺より先に妹である琴葉の方が俺より早くそう言う体験をしていると言うのは複雑な気もするけど本当に愛し合ってるなら兄としては嬉しくもある…

 と思ったけど、それは俺の杞憂だったらしい。


「でも、お兄ちゃんとなら付き合ってあげても良いよ?」


「良いわけないだろ!」


 本当にそろそろ兄離れをしてもらわないと琴葉の将来に関わるな…仕方ない、ここは少し厳しいかもしれないけど兄としての威厳を持ってして琴葉に言うべきことを言わせてもらおう。


「琴葉」


「…何?」


「今もう琴葉は高校生だ」


「…それで?」


「別に高校生だからって恋人を作れとは言わない」


 なんなら一生琴葉が恋人を作らなかったとしても、俺は特に文句を言うつもりはない。人生は一人一人のものであってそこは兄であったとしても立ち入るべき領域じゃないからだ。

 だが…俺は兄としての威厳を持ってして言う。


「そろそろ兄離れ────」


「それ前も話したよね」


「っ…?」


 琴葉の声に若干の怒気が入った。


「は、話したけどやっぱり元は一つだったとしても今はもう別だろ?」


「違うよ?」


「……」


「私、お兄ちゃんとなら本当に付き合ってもいいと思ってるの」


「こ、琴葉、そう言う冗談は─────」


「───冗談に聞こえる?」


「…いや、その…」


「まっ、お兄ちゃんは私を傷つけたくないんだよね!わかってるよ!」


 琴葉はいつもの琴葉に戻ると、どこから取り出したのか、紙を取り出して行った。


「ねぇ、明日って普通の学校は祝日だったよね?」


「え?まぁ…」


「だよねっ!だから良かったらなんだけど…」


 そう言って琴葉は、俺に『授業参観』と書かれた紙を見せた。

 俺と琴葉は違う学校に通っていて、琴葉の学校の方が偏差値が10近いぐらい高いため、俺は休みでも琴葉は休みじゃないというケースが起こってもおかしくはない。

 因みに高校を選ぶときに琴葉は俺と同じところを希望したが、両親にものすごく反対されたので仕方なく俺よりも偏差値が高いところに通っている。


「明日、来て?」


「えっ、でも俺が行ったって────」


「昨日約束破ったこと、忘れてないよね?」


「喜んで行かせていただきます!」


 こうして俺は明日、琴葉の学校に授業参観しに行くことになった。

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