メジャーリーガーへの挑戦
ついたのはアメリカのアリゾナの州都フェニックス。日本からの直行便がないため、チャーター機になったのだ。
アリゾナは温暖で乾燥した気候のため、フロリダと並ぶメジャーのキャンプ地となっている。問題は日本と時差が16時間もあること。9日の日付が変わる前には飛び立ったのに。11時間ほどのフライトでついたらまだ9日の夜だったというわけ。
これがいわゆる時差ボケの原因になるわけだが俺は大丈夫。睡眠魔法を使えばしっかり眠れるんです。
3月10日。
「健ちゃん、朝からスッキリした顔して。眠れたの?」
ホテルのレストランで腹ごしらえをしていると、因幡さんもやってくる。眠たそうだ。
「はい。若いですから。」
俺の答えに大きなあくびでこたえる。
「あ、そう。それだけは勝てんわ。それだけはな。」
第二ラウンドであるサンディエゴラウンドは週末の日曜日からだ。お世話になるスコッツデール
練習初日は軽い調整程度。雰囲気は第一ラウンドが終わった解放感から和やかなもの。ここ数日は寒波に襲われて室内練習が続いていたこともあって抜けるような快晴のもと、温暖な気温の中で身体を動かすのは気持ちが良い。
ただランニングもテレテレ。
「時差ボケつらいわー。」
ミスしても
「サーセン。時差ボケでーす。」
と全部言い訳が時差ボケに全振り。まさしく「春の時差ボケ祭り」やぁ状態。もちろん、ホントにしんどい方もいるけどね。
3月11日。
サンフランシスコ・グロリアスとの練習試合。
試合前練習が終わるとファンがヰチローさんにサインをねだってすごいことに。キャンプの球場はわりとフェンスが低いこともありお目当ての選手のサインをもらうために来るファンも多いのだ。
え?俺?
俺ごときマイナーリーガーのサインを欲しがる物好きも結構いた。奇特やな。
「健ちゃん、プロスペクトランキングに載ってんの知らんの?」
錠島さんに笑われる。
「あー、なるほど。」
「プロスペクトランキング」とは、メジャーに昇格しそうな有望な若手を特集したブックレットとして毎年の初めに「ベースボールUS」誌が発行しているのだ。
プロスペクトとは「鉱石」のことで日本で言うところの「金の卵」とか「有望株」と言ったところ。
俺はレイザース傘下で期待度1位、全体で4位にランクされていたのだ。由香さんが昂奮気味に教えてくれた時はふーん、という感じだったが、たしかに野球好きなら、名選手を指してこいつの新人時代はなーとドヤるのは楽しいよね。そう、アイドルグループファンの「この推しメンはワシが育てた」に近い。
さて、練習試合はまだ調整中とは言え、エースのリンズカム氏が登板。昨年の
身長は投手としては「小柄」な180cmと言われてはいるものの、本当はないかも。ただ顔ちっちゃいから遠目で見れば背は高く見える。⋯⋯とか言いつつサインもらったった。
「意外にちゃっかりしてんのな、お前。くっそ、俺も英語ができれば。」
先発予定の田仲さんに呆れられる。上げませんよ。
ただ試合が始まると顔の甘さとは真逆のエグい投球。大きなストライドで全身を使って投げ込んで来る感じだ。速球と変化球の緩急の差もあるし、縦に落ちる変化も鋭い。これで昨シーズン265三振も奪っているのだ。
仲島さんが安打で出塁するも蒼木さん、武良多さん連続三振。敵ながら見ていて気持ちいいレベル。こんな化け物とやり合う世界なのか。
田仲さんもいきなり打線に捕まり初回2失点。
そして2回、7番指名打者の俺に回ってくる。しかもチャンスで。
四球と失策で無死二塁一塁。ただここでベンチからバントのサイン。バントかよ?と思ったがバントすらなかなかに難しい。なんとか無事に一死三塁二塁へ。こんなにバントに冷や冷やしたのは初めてだった。ただ続く安部さん磐村さんが連続三振。
「悪ぃ。せっかく送ってもらったのに。」
安部さんの
「いや、相手はサイ・ヤング賞投手ですし。」
3回、四球二つで一死二塁一塁の時点でリンズカム氏は降板。調整途上で全日本が5三振を喫する展開。さすがはメジャーリーガーだった。
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