第8章 - 4 スタートライン(4)

 4 スタートライン(4)




「そう言えばさ、結婚の話って、俺、してたっけ?」

 そう声にしてから、達哉も真顔になって翔太の顔を覗き込む。

 すると一気に彼の表情が変化した。

「結婚って!? 俺がってこと?」

 驚くようにそう言って、お化けでも見たような顔をする。

「そうそう、でもあれか、やっぱりまずいかな……お相手のこともあるし」

「ちょっと待ってよ、お相手って、それってもう、俺が知っている人なの?」

「知っている? そうだね、知っていると言えば、そう、知ってる人、かな?」 

「誰? それって、誰よ……」

 翔太はそう言ってすぐに、慌てて両手でバツを作った。

 そのまま顔を下に向け、語気を強めて達哉に告げる。

「やっぱりいい! 聞くのはやめた!」

 すると間髪入れずに、

「なに? どうしたの? 何をやめるの?」

 上から声が響き渡って、二人が慌てて顔を上げると、ハッピ姿の千尋がテーブル横に立っていた。

 そこで一気に口角を上げ、達哉は千尋に告げるのだった。

「いやあ〜ちょうど今さ、本間さんの将来について、二人で話してたんだよ」

「え? なに? わたしの将来? それってなんなの?」

 そんな二人の会話を聞いて、翔太の顔が一気に歪んだ。

「ああ、それはねえ〜」

 達哉がそう言い掛けた時、厨房の方から高城の声がしっかり届いた。

「お〜い! 三卓さんおかえりだよ〜」

「は〜い!」

 千尋はすぐに声だけ返し、

「あのさ、ちゃんと後で教えてよ!」

 わざわざその場にしゃがみ込み、睨み付けるようにして声にする。

「嘘だよな? 千尋ちゃんじゃないだろ?」

「どうして? 彼女じゃ困る?」

「いや、そんなこたあないけど……」

「じゃあ、いいじゃん?」

 千尋がレジに消えると、さっそくそんな会話が繰り返された。

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