第8章 - 3  1980年 五月三日 土曜日(8)

 3  1980年 五月三日 土曜日(8)




「ううん、そうじゃないって! わたしが、わたしが言ったんだから、ちゃんと伝えた方がいいって! そうすべきだって、だから、だから本当に、ごめんなさい!」

「本間さん、いいの、本当にいいの、教えてもらって、本当によかったのよ、あの人が目を覚ましたら、すぐにこの話、しっかりと伝えるわ。それでね、警察にもお願いして、また、捜査してくださいって、お願いするの、だから本間さん、わたし感謝なのよ、ありがとうございました」

 まさみはそう声にした後、達哉、そして翔太の方へ目を向ける。それから千尋に向けてしたように、きっと感謝を口にしようとしたのだろう。

 しかしそんな言葉は声にはならず、まさみの視線はそのままゆっくり流れていった。

 達哉の隣にいたはずだった。

 ところがそんな達哉でさえ気付かぬうちに、静かに扉を開けたのだろう。

 そうしてきっと今頃は、病院の廊下を歩いている頃……か? 

 ――くそっ!

 行き場のない怒りをただただ覚え、翔太を追いかけようと達哉は思う。

 だから〝とっとと〟振り返り、足をなん歩か踏み出したのだ。

 ところがその時、いきなりだった。

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