第5章 - 2 行方(6)
2 行方(6)
「いや……あのさ、実際はね、ハイキングコースからかなり外れたところにいくんだよ。それで、結構ハードらしいんだ。ホント、地図でもさ、大まかな場所しかわからないし、今回はホント、やめておいた方がいいと思うよ……」
そんな翔太の声に、千尋が不満そうな顔で何かを言い掛けた。
ところがそれよりちょっとだけ先に、なんとも明るい声が響き渡った。
「おお! お二人! なかなか、美味そうなのが並んでるじゃないか!」
見ればさっきの運転手が立っていて、テーブルに置かれた〝あれやこれや〟を大袈裟な仕草をしながら覗き込むのだ。
彼は車内で着ていた制服を脱ぎ捨て、なんとスリーピースの背広姿。
そんなのはまさに、驚くくらいの変わりようで、ちょっと見ただけなら彼だとけっして分からないだろう。
ボサボサだった頭もポマードか何かでビシッと撫で付け、まるで別人、驚くような変身ぶりなのだ。
行き付けのスナックが開くまで、時間潰しに立ち寄ったそうで、
「そういやあそこ、本当にふた部屋にしたんだって? もったいないなあ〜 こんな可愛いお嬢さんを目の前にして、俺だったら、絶対に、ひと部屋にするけどなあ〜」
などと言いながら、とうに還暦を越えているだろう彼はそのまま、いきなり翔太の隣の席に座り込んだ。
「ああ、それからさ、今、お兄ちゃんが話してたことだけど、お兄ちゃん、あそこから入って、いったいどこに、何しに行こうっての?」
きっとしばらく、二人の会話を聞いていたのだ。
彼はそう言ってから、いかにも馴染みだって感じで熱燗を注文。
「それからさ、肴を何か適当に見繕って、持って来てくれよ、あ! 三人分ね!」
などと声にしてから、再び翔太の方へ顔を向けた。それから翔太は覚悟を決めて、荒井に関することを彼に向かって話し始める。
「だから、本当に自殺だったのか、自分の目で、確かめようと思うんです」
そう言って、翔太が〝あらかた〟話し終えた頃、豪勢な料理がテーブルの上にズラッと並んだ。
彼は満面の笑みで、「こりゃあ美味そうだ! さあ、こっちの方も二人でどんどん食べてくれ」などと声にした後、遠慮している二人に向けて怒ったような顔まで見せた。
と思えば、急に真面目な顔付きになり、静かな声でポツリと言うのだ。
「その、あんたの友達をさ、どうにかしたんじゃないかって奴は、もしかしたら……なんだが、うん、そいつの名前、まさか、林田っていうんじゃないよ、なあ?」
翔太の顔を覗き込み、名前も知らないスーツの男はそう告げてから、ほんの少しだけ口角を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます