第3章 - 4 本間千尋と(2)

 4 本間千尋と(2)

 



 ただとにかく、実家暮らしでおんなじ大学に通っている。

 それだけで、ずいぶん安心したんだと千尋は達哉に打ち明けた。

「でね、血液型を聞きにさ、わたし夜遅くに、彼の部屋に行ったわよ。で、いきなり血液型を教えてって訳にはいかないでしょ? だからまあ、いろんな話をしてね、そうしてから聞いたのよ、血液型は、なにってね……。でもさ、実は知らないって彼が言うのよ。お母さんのは知ってるんだって、でもね、自分のは正直分からないって……でね、逆に、どうしてそんなこと聞くのって聞かれちゃったから、誤魔化すのに、正直ずいぶん苦労しちゃったわ……」

 母親が入院し、血液型のことはその頃何度も耳にした。

 だから母親がB型だってことに間違いない。ところが自分の方は小さい頃に耳にしたような気もするが、ぜんぜん思い出せないと言って、彼は千尋を見つめて笑顔を見せた。

「だから結局、どうなんだかまだ分からない。でも、あなた、言ってたわよね、彼のお母さんの名前、天野、由美子さんって……お父さんの行方不明もそうだけど、どうして、そんなことまで知ってるの?」

 母親の方はB型で間違いなかった。

 そして翔太の方も、いずれ交通事故を起こして血液型を知ることになる。

 だからそれまでになんとかしないと……大変なことになってしまうのだ。

「実は、彼の父親だって名乗り出るやつは、あの店にいるマスターなんだ。彼が借金を抱えていて、その借金を肩代わりさせようとして……」

「ちょっと待ってよ! そんなことより先に、どうしていろいろと知っているのかを教えてよ、すべてはそれからだって!」

 口に運んでいたジョッキを勢いよく置いて、千尋がいきなり達哉の言葉を遮った。それから両腕をテーブルの上で組み、その上に顎をドカンと乗せる。

「それからね、未来が見えるとか、予知能力があるとか言っちゃうのはやめて頂戴ね。こっちはちゃんと聞こうってんだからさ、そっちも〝おチャラケ〟なしで話してよ」

 本間千尋は達哉の顔を上目遣いに見つめ、言い終わった途端に広角を上げた。

 ――僕は彼の未来を知っている。

 ――どうしてだかは言えないけれど、とにかく信用して欲しい。

 これでなんとか押し切ろうだなんて、この瞬間に無理だと悟った。

 ――じゃあ、どうしたらいい?

 そう思いつつ、達哉はただただ千尋を見つめて押し黙る。

「なに? もしかして本当に、予知能力があるとかって、そんな話なの?」

 スッと千尋の顔から力が抜けて、落胆、失望って心の動きが見て取れた。

 ここでやっとこ……覚悟が決まった。

 達哉は突然立ち上がり、「いきなりなに?」って顔する千尋に向けて、

「ちょっと、トイレに行ってくる。戻ってきたら、ぜんぶ、洗いざらい話すから、ちょっと待っててください」

 そう言ってから、居酒屋のトイレに駆け込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る