第2章 - 2  変化(5)

 2  変化(5)

 



  ――え? ウソ! ウソだあ〜!

 真っ白だった肌が小麦色になって、脂肪が一気に削ぎ落ちている。

 人は太ってちゃダメなんだ……と、まさにそんな見本がそこにいた。

 ――やだ! この人、こんなにいい男だったの?

 なんて驚きのまま、ジッと視線を向け過ぎたのだ。

 まずい! と思った時にはこっちを向いて、そしてなんということか、ニコッと微笑むように両目を大きく見開いた。

 その時咄嗟に、慌てて視線を逸らしてしまった。

 ――あ、わたし、見てませんから!

 そんな感じを訴えるように、視線だけを斜め上へと向けたのだ。

 そんな失敗があってから、由依美はあえて乗車するところを一つだけ変える。

 もちろん車両は一緒だし、彼のいる方へ入り込むから、ちょっと見つけるのに時間が掛かるってだけだ。

 そしてそれからは、特に変わったことは起こらない。

秋が来て、冬が来て、何も起こらないまま……また春が来る。

 不思議だったのは、朝はほとんど会えるのに、帰りはまるで一緒にならない。きっと部活か何かやっていて、帰りはずっと遅いのだろう。

 そう思っていたのだが、たった一度だけ、帰りの電車に彼の姿があったのだ。

 初めて見掛けてからすでに、一年近く経っていた。そんな日に、彼は由依美と同じ電車に乗って、なんと彼女と一緒の駅で降りたのだった。

 彼が降りようとするのを知って、由依美は慌てて動きを止めた。

 ――尾いて、行こう!

 咄嗟に決めて、彼がホームに降り立ってから、彼女もゆっくり出口に向かった。

 ドキドキしたが、最初はそれでも順調だった。

 彼が向かった目黒通りは、幸い何度も通ったことがある。それに不思議なくらいゆっくりだから、見失う心配もぜんぜんなかった。

 ところが住宅街に入ってからは、さすがに緊張感が増してくる。それでも周りに視線を向けながら、歩みはやっぱりゆっくりなのだ。

 ――もしかして、ただのお散歩?

 なんて思いたくなるくらい、彼は辺りをキョロキョロしながら歩いている。

 そして何度目かの角を曲がって、彼の姿がいっ時見えなくなった時だった。

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