第1章  -  4  山代勇(2)

 4  山代勇(2)



 それからすべてを正直に話し、そこから林田の悪行が白日の下に晒される。

 そんなことのお陰だろうが、幸い少年院には入らずに済んで、翔太はあっという間に釈放された。

 すべては、荒井の書き残したノートのお陰だ。

 彼のカバンを使うよう言われた同室の少年が、カバンの中のノートを発見。その驚きの内容に、彼は誰にも見せずにずっと隠し持っていた。

 そうして翔太が逮捕され、当然施設の関係者にも調査が入る。

 刑事がしてきた質問以上に、少年は一気にすべてを話し始めた。ノートに書かれていた内容を、林田に関わるすべてを刑事に伝えてしまうのだった。

 ――林田が乱暴したから施設の女の子が自殺した。

 ――だから天野翔太は、林田という悪人を成敗しようとしただけだ。

 だから彼は悪くないと、涙ながらに訴えたのだ。

 どうしてノートを見せなかったのかは分からない。

 ただその発言によって警察が本腰を入れ始め、そう時間かからずに林田への逮捕状が出ることになった。

 それでも出所後施設には戻れず、新聞販売店の寮に働きながら住むことになる。それから半年後、夜学の高校へも通い始め、誰より一生懸命勉学にも打ち込んだ。

 チンピラたちからは何もなく、彼は高校を卒業と同時に販売店を辞める。小さな木造のアパートを借り、昼間はバイク便で小金を稼ぎ、夜は駅前のバー「DEZOLVE」でウエイターとして働いた。

 翔太は二十二歳になっていて、店の雇われマスターは何かと世話を焼いてくれる。

 山代勇、五十四歳。彼も翔太と似たような境遇で、二人は何かと気が合い、あっという間に距離を縮めていったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る