第 話
櫛江里佳は特筆すべき点のない、いたって普通の女子大生であった。両親がいないことを除けば。
里佳は今、自宅へ戻っていた。
「おかえり」
里佳の背後から聞き慣れた声がした。里佳は振り返る。
「お兄ちゃん!」
里佳は兄のもとまで駆け寄る。兄の海斗はいつも通りだった。
しかし、里佳はなんとも言えない違和感を覚えた。
「もういいのか?」
海斗は言った。里佳はそれを聞いて笑う。
「いいって、何が」
兄は天然なところがあるが、こんなにもとぼけた様子で出迎えたことはなかったので里佳はなんだか可笑しく感じた。
「ねえお兄ちゃん。私、びっくりするぐらい美人な男の人に会ったんだよ。それから家事をなんでも完璧にこなしちゃう男の子にも。おいしい料理を食べさせてもらって、ふかふかなベッドで眠ったの。お兄ちゃんが作ってくれる食事と同じか、ひょっとしたらそれ以上においしかったかも」
里佳は海斗をからかうつもりで言い、靴を脱ごうとした。
しかし、玄関がないことに気がつく。
靴箱もないし、廊下もない。
振り返ると、玄関扉も見当たらない。
――――そういえば、玄関はどんな色をしていただろう
――――玄関って、どこの玄関のことだっけ
里佳には思い出せなかった。
天を仰ぐと、そこには白いもやがあるだけだった。
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