公子、カンストする
「色々聞きたいことがあるけど、説明してくれるか?」
「はい。ですが、まずはお詫びを。私の心の弱さのせいで、あなたに苦労をさせることになりました」
聖女は片膝をついて深く頭を下げる、聖王国に特有の礼をした。
「いや。たぶんだけど、君が謝ることじゃないと思う」
聖女が犯したという罪は、闇魔法使いに頼んで母親の病気を治したということ。
子どもが母親の病気を何としても治そうとしただけで死んでしまうというのは、もともとの誓約が重すぎたんだ。
「私の力は、この世界の守護神様からお借りしたものでした。神様は私に、悪魔の作った次元の亀裂を浄化するだけの聖属性の力をくださいました。でも、それは強すぎる力で、釣り合う誓約が厳しくなりすぎたのです」
俺が<システム>に経験値を下げられた基準にも、つきつめれば人間として生きるのが現実的でなくなるものがあった。俺の場合は下がった経験値を他で補えば前に進める<システム>だったけれど、厳しいペナルティを課されていたら、俺もとっくに破綻していた。
「神様の力を使うには、神様に同調していなければなりません。神様は、何も食さず、何も殺さず、何にも執着しない存在です。私はそれに合わせて、何も口にせず、<森林浴>のような力で命をつないでおりました」
「それは、人間には無理だ! 失敗しても仕方ないよ」
俺が彼女を
「ええ。だから、悪魔に命を絶たれたあと、神様にお願いして<システム>を作ったのです」
聖女が死んだとき、守護神の演算した未来では、悪魔による王国と聖王国の汚染を取り除くのは不可能と出たそうだ。
神の力は融通がきかず、誓約を通さないで直接手を出せば、世界を歪ませてしまう。だから、神は王国と聖王国を世界から隔離して、創りなおすつもりだった。
それを、聖女が止めた。
「1ついいか? 何で、俺だったんだ?」
俺より強い者も、賢い者も、いただろうに。
「演算された未来のあなたの運命は、魔人となって最悪の結末を迎えるものでした。そのあなたが、自国の闇を浄化し、悪魔と対等に戦うように導くこと。それが、<システム>に課せられた誓約だったのです」
そうか。
数日前に見た<ロックの解除>。あれは、製作者側が俺を導いて誓約を果たしたことによる変化だったのか。
「それで、さっきクエストクリアって言っていたけど、報酬として、俺が聖女の力を引き継ぐのか?」
ここに来るまでに見た聖都の闇は、今の俺に<浄化>できるものではなかった。強力な、聖女の力が要る。
しかし、彼女はそれを否定した。
「今のあなたが持っているのは、普通の人間が持てる上限ギリギリの聖なる力です。あなたは、その小さな力で、次元の亀裂を閉じるのです。それが、私の考えた攻略法です」
えっと、どういうことだ?
首をかしげると、聖女はニコリと微笑んだ。
「クエスト報酬をお受け取りください」
《 クエストを達成しました New! 》
《 おめでとうございます。「聖王国へ」を達成しました。報酬として、経験値150000を獲得しました 》
《 レベルが上がります 》
《 現在のレベル:99 現在の経験値:----/---- 》
《 新しいスキルを獲得しました 》
《 新しいスキルを獲得しました 》
《 称号授与スキルを獲得しました New! 》
《 称号授与スキルは、対象にふさわしい役目を自覚させることで強化するスキルです。対象にふさわしくない称号を与えることはできません 》
《 生命の輪スキルを獲得しました New! 》
《 生命の輪スキルを使うと、あらゆる生き物から余剰の生命エネルギーを受け取ることができます 》
大量の経験値が流れこんでくる。
それに合わせて、聖女の意図も、何となく把握することができた。
「……敵が近づいているようです。あなたと強い縁を持つ敵です。お戻りください」
報酬の受け取りを完了すると同時に、聖女に告げられる。
俺にもなんとなく、誰が来ているのかは分かった。
「最後に、もう1つ謝らせてください。あなたに、
深く頭を下げたあと、おそるおそる俺をうかがう聖女には、自分を嫌わないでほしいという年頃の少女の顔が垣間見えて、俺は思わず笑みをこぼしてしまった。
「気にするな。14歳の俺の心は、今思うと危うい状態だった。<システム>によって、俺は何もなければ悟れなかったことに気づき、絆を得ることができた。それは、幸福なことだと思っている」
笑いかける俺に幼い涙を見せた聖女に手を振って、俺は元の世界へと戻った。
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