公子、父の凄さにびっくりする

 翌朝、説得に行くつもりだった父親と、街の前で鉢合わせた。


「セリム、貴様、ズルいぞ。サルミエントの動きを嗅ぎつけて、自分だけ先に戦場に行ったな!」


 父はぷりぷり怒っていた。


「いえ、父上には、領地の魔物をあらかた片付けたとはいえ、後始末が……」

「そんなの、エーリカに任せてきたぞ!」


 これは、あとで溜まった母親の怒りを、俺までぶつけられるやつだ。


「それで、戦争はどうなった?」

「争いは終わっています。サルミエントの統治機能が使えなくなっているので、父上が人員を連れてきてくださり、助かりました」


 とたんに、父の口がへの字に曲がった。


「そんな。なら、エーリカをこっちに送った方がマシだったじゃないか」


 普段から、内政は母がほぼやっていたもんなぁ。まあ、王家に引き継ぐまでの短期間だし、何とかなるだろう。


「それより、父上にお願いがあるんです」

「何?」


 お願いと言った瞬間、父のぎょろりとした目玉がこっちを向いた。もう慣れたから、威圧してもムダだぞ。


「聖王国に密入国したいです。内々に許可をください」


 父の横にいた側近の大人たちが、ギョッとした顔になった。だが、


「ああ、いいぞ。行ってこい」


 父は即答で許可をくれた。え? あっさりすぎないか?


「何を驚いているんだ?」

「いえ。止められるかと思っていたので」

「お前は、先日の魔物の大発生を予知しただろう。その力、理由なく授けられたものではあるまい。表面化していないだけで、今の王国は危機的状況だ。火事は燃え広がってからでは止められない。たとえ火傷してでも止められる者が止めるべきだ。心配しなくとも、火傷の一部くらいは被ってやる」


 父はケロリとしていた。


「あの、お義父とう様、私もセリムについていってよろしいでしょうか?」


 横からナディアが父に尋ねると、父の瞳がキラリと光った。


「もちろんいいぞ。私が許可をしてナディア嬢が行方不明になったら、ルヴィエ家と内戦ができる。一度本気で戦ってみたかったのだ!」


 父の叫びに、周りの立派そうな大人たちが、頭を抱え、胸を押さえ……。いつもうちの父親が迷惑をかけてすまんな。


「ごめんなさい、セリム。残念だけど、私は留守番ね」


 悲しそうにナディアに言われた。これはしょうがないかな……。


「いやいや、冗談だぞ? ナディア嬢も一緒に行ってきなさい。ルヴィエ侯爵も、私と同程度には状況を理解している。それに、ルヴィエの当主が、うちの息子との結婚を認めたんだ。夫の大事な勝負に付き添うのを、アイツが否定するわけがない」


 ケロっとして言う父に、ナディアが面食らっていた。

 うちの父がナディアを口で翻弄するとはなぁ。びっくりだよ。


義父上ちちうえ、俺も同行していいですよね?」

「む……。ちょっと羨ましいが、まあ、いいだろう」


 レオも父から聖王国行きを認められた。


「私はセリム様の護衛です。一緒に行かせてください」


 カティアは俺に直接仕えている扱いなので、俺が頷けばついてきてくれる。

 一緒に行くのは、この3人だけでいいな。聖王国でトラブルになったとき、単独でも逃げ帰れる実力がある者しか連れていけない。


「お気をつけて。行ってらっしゃいませ」

「ああ。後のことを頼む」


 ヴァレリーと俺の側近たちには、父と一緒に街の復興を手伝うように頼んだ。


「それじゃあ、行くか」


 俺たちはすぐに、南へ向かって走り出した。


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