公子、ドワーフの里へ行く1

 翌早朝、ドワーフの里に同行するルヴィエの騎士たちは、丁重に案内役を務めてくれた。

 俺と一緒に、ナディアとレオも山を登る。機密が多い場所に行くので、ベルクマン家から同行できる者は1人に限られていた。


 領主城の背後にそびえたっていた山に入る。

 この中腹に、ドワーフの里がある。

 山道だが、ドワーフの武器を輸送するため、しっかりした道ができていた。

 歩いていると、野ウサギが数匹、俺の足元に寄ってきた。そのうちの1匹を抱きかかえる。


「寒かったからちょうどいい。お前、カイロの代わりになれ」


 そのまま、ウサギと一緒に山登りすることにした。

 背後で声がする。


「信じられない。警戒心の強い野生動物が、自ら寄っていくなんて」

「彼の周辺だけ、キラキラして……」

「公子が進むごとに、若葉が芽吹いているんだが……」

「土がむき出しだった地面に花が……。あの人、本当に人間か!?」


 色々言われてる。

 本当に、何か最近、大変なことになってきた気がする。

 教祖なんかにまつり上げられる前に、借り物の力を返却して、余生はのんびりしたいなぁ。

 そのためにも、まずは悪魔を何とかしないと!



 日が高くなるころ、ドワーフの里に着いた。

 ドワーフは、背の低い毛むくじゃらな種族だった。

 寒い山の中で毛皮を着込んでいるため、丸っこい動物みたいになってた。


 侯爵が特に治してほしがっていたのは、2年前に大怪我をしたドワーフの名匠だった。娘をかばって、魔物にやられたそうだ。


「ドワーフは大切な取引相手だから、侯爵家で里の周辺を山狩りして、魔物を減らしてるの。だけど、彼らの掟で、我々は同じところに住むことができなくて。彼らの集落は、険しい山の中でないといけないから、守りにくいのよ」


 ドワーフは、誓約のために厳しい環境に身を置いて、命を落とす者もいるそうだ。

 最初に目的の名匠の治療をし、残った魔力が尽きるまで、他の怪我人も治した。

 今日は里に一泊し、明日には、山を下りる。



「折角だから、ドワーフの仕事を見ていかない?」


 魔力を使い切って治療を終えると、ナディアに誘われて、工房見学となった。


 先ほど治療したドワーフきっての名匠が、すぐに制作作業を再開していた。


「君は恩人だ。専用の剣を作らせてくれ」


 おぉ、ドワーフ製のオーダーメイド! うちの領地じゃ、まず手に入らない逸品だ。


「それは嬉しい。だが、俺のよりも、作ってもらいたい人物がいる」


 俺は同行していたレオを、ドワーフに紹介した。

 魔法か<スキル>で戦う俺より、属性剣を使うレオに良い武器を持たせたい。以前から、レオ専用武器が欲しかったし。


「ほう。ちょっと剣を振ってみせてくれないか?」


 庭先に出て、レオが剣を振るう。魔法で属性を付与された剣は、虹色に輝いていた。


「これは、良いものを見せてもらった!」


 ドワーフの名匠は、レオを気に入ったようだ。良かった。

 彼は何本ものサンプルの剣をレオに振らせて、制作の相談を始めた。


「私たちはお邪魔ね。他の工房の見学をしましょう」


 レオをその場に残して、俺とナディアは、他のドワーフ工房を見学することにした。


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