公子、取り合われる

 カティアの言う通り、しばらくしてレオが到着した。


「セリム! 無事か!?」


 レオは身体強化を使って走ってきたらしい。彼の後ろから、ぜいぜいと息を切らして、ギルベルトもこちらへ向かっている。


「敵は無力化してある。だが、まだ終わっていない。そこのマルクと、他2人ほどが魔人化している。俺でなければ拘束していられない。危険な存在だから消滅させてほしい」


 手伝ってくれるか? と聞くと、レオは少し考える仕草をした。


「魔人を殺すと、死体を残さず消滅するよな。マルクが消えると、事件の首謀者を証明できなくなるぞ?」


 証拠がないと、サルミエント家はマルクの魔人化を認めないだろう。後が面倒になる。


「だが、高位貴族クラスの魔人はとても危険だ。簡単に抑えているように見えるが、解き放てば王都くらい壊滅させかねないぞ」


 実際、俺自身が前世で派手にやらかしている。


「あの、少し待つことはできますか? こちらに向かう気配がたくさんありますので。援軍が来ていると思われます」


 話を聞いていたカティアが教えてくれた。彼女の感知魔法によると、強い魔力を持つ集団が2つ、こちらに急速に接近しているそうだ。


「待つか。カティアの傷が心配だな。村に置いてきた医療道具があればよかったんだが」

「いえ。身体強化魔法で自己治癒していますので、もう深い傷はふさがっています。これでも、剣士として生きてきた身です。問題ありません」


 そう言うと、カティアはまだ俺の護衛を続けるというように、俺の後ろに控えた。


「接近しているのが敵ってことはないよな」


 ギルベルトが警戒する。


「大丈夫だと思います。遠距離なので確定ではないですが、ラファエラ王太子殿下の魔力を感じますので。公子の救出に来てくださったのだと思います」


 王女が来るのか。

 婚約の話が出たところだったが。

 さて、どう対応しよう。



 しばらく待っていると、王女とナディアが、ほぼ同時に到着した。

 婚約者候補の女性2人といっぺんに顔を合わせることになって、内心、ドキドキする。だが、2人とも俺の無事を確認すると、すぐに敵の方を向いた。


「マルク……」


 王女がマルクを見つめる。マルクは王女の婚約者になるために彼女に近付いて、学園では同じチームを組んでいた。思うところもあるだろう。


「……人形王女か。お前には、いくら媚びを売っても無駄だったな。いくら強かろうが、操り人形。いや、強さも微妙か。ぶっちゃけ、ここにいる他の奴らの方が強いだろ。まったく、価値のない女を狙って、酷い目にあったぜ」


 拘束されていたマルクは、好き放題に暴言を吐いた。

 王女が剣を抜く。


「どうぞ」


 俺は一言、王女の背中を押した。

 王女がマルクを切り刻んで消滅させた。


「あと2体、魔人だけは今すぐ処理を頼む」


 続けて、俺が示した2人を、レオが倒した。


「他は、通常の拘束でも問題ない。連行して取り調べるなりは、お任せします」


 王女の連れてきた騎士たちが、残りの敵を捕縛したので、俺は<聖鎖結界>を解いた。


「……ふぅ」

「大変だったわね、セリム。馬車を手配したから、寝ていていいわよ」


 ナディアが労わってくれる。それは有り難いんだけど、


「馬車なら、王家が用意する。心配するな。安全に送り届けよう」


 王女とバチバチするのはやめてくれ。

 ただでさえ疲労しているのに、さらにゲッソリするぞ。


「眠いなら、もう寝ててもいいぞ。連れて帰ってやるから」


 近くに来たレオまで、送り届け役に立候補してきた。

 そうだな。俺の輸送はレオに任せよう。すっごく疲れているし、寝たふりして誤魔化せないかな。

 さっきまで捕まっていた馬車の荷台に座って目を閉じると、俺は本当に、簡単に寝入ってしまった。

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