レイナとの密会

 俺とレイナは互いに好き合う仲だし、元婚約者で婚約を復縁させようと思う間柄でもあるが、それでも今の俺はただのハイトでレイナはこの国の王女様だ。

 クラス分けでも俺は最低クラスのFで、レイナは最高クラスのS。


 表立って堂々と会うわけにはいかない俺たちがよく逢瀬する場所は、英雄学園にある特別接待室だった。


 特別接待室。それは英雄学園に訪れた賓客をもてなしたり、英雄学園に通う王族が自由に使ったり出来る部屋。

 王族であるレイナは護衛の騎士であるエレンさえ捲くことが出来ればこの部屋に一人で来ることくらい容易いし、俺はレベルが高いので学園の警備をかいくぐって忍び込むくらいは容易かった。


 JROでは、数多のトラップが張り巡らされたダンジョンを全て攻略した俺だ。学園の警備なんてあってないようなものである。


 そんなこんなで俺は今日も、レイナと密会していた。



                     ◇



 レイナとの密会、或いは逢瀬の頻度は大体週に一、二回。曜日は敢えて不定期にしている。いつもはいちゃついたり、レイナの話を聞いたりすることが多いが、今日は俺の方から報告したいことがあった。


「レイナ、実は俺……Sランク冒険者になれそうなんだ」

「へぇ、スゴいですね。流石ハイトです」


 あれ? 俺は、思っていたよりも薄いレイナのリアクションに困惑する。


「お、驚かないの?」

「驚きませんよ。ハイト、最近スゴく強くなってますし。連日街でドラゴンを引きずり回すヤバい冒険者がいるって噂にもなってるんですよ?

 実は、そろそろハイトもSランクに上がるんじゃないかなぁって思ってました」

「お見通しじゃん」

「はい。ハイトのことは誰よりも見て来たつもりですから」


 そう言ってはにかんだレイナにドキッとする。

 前世では両親でさえ俺に興味を持ってくれなかった。でも、この世界ではレイナが――好きな人が俺に関心を持ってくれる。

 そのことが嬉しくて、少し顔が熱くなった。


「だから、ハイトが最近受付嬢とも仲良くなっているのも知ってるんですよ」

「……ニーナさんはその、ち、違うから!」

「へぇ、その方ニーナさんって言うんですね」


 そう言って優しい笑みを浮かべたレイナにドキッとした。

 ……ま、まだ生乳一回揉んだだけだし。あれ以降はまぁ「おっぱい揉みます?」ってからかわれたり、ちょっと抱きつかれてスキンシップは多いけど。

 でも、三人目のお嫁さんにするとかそういうつもりはないわけで……


 ニッコリとした笑みを貼り付けるレイナを見ていると、背中からじっとりとした汗が湧き出てくる。


「ご、ごめんなさい!」


 俺は、そのプレッシャーに耐えられずレイナに土下座をした。

 レイナははぁ、と可愛くため息を吐く。


「私もずっとハイトと一緒に居られるわけじゃないですし、ハイトが私を一番好きでいてくれるなら、別に他の女の子といちゃいちゃするのは構いません。

 でも、いちゃいちゃしたい女の子が出来たら私にちゃんと報告してください。解りましたか?」

「は、はい……」


 俺はレイナの言葉に返事する。

 でも、それでも俺はこれだけは言っておかなければいけなかった。


「れ、レイナ!」


 俺は立ち上がって、レイナの手を取った。

「なんですか?」

「俺、確かにラグナとかニーナさんとか、ちょっと浮気しちゃうところもあるけど。でも、それでも一番好きなのはレイナだから! 一番愛してるのはレイナだから!」

「は、ハイトは、ずるいです……」


 レイナは頬を赤く染めて、顔を俯かせる。

 俺はそんなレイナが愛おしくて抱きしめた。レイナの匂いがする。……レイナとはもう十年以上の付き合いになるけど、こうして抱きしめるとその時の流れを実感できるようだった。


 俺はレイナが好きだ。やっぱり、レイナと結婚したい。


 だからこそ俺はSランク冒険者になって、相応の成果を上げて……必要なら、ハーメニアの貴族だって倒す。王様だって倒す。レベル80になった俺ならハーメニアに出現するどのキャラにだって負けないだろう。


「レイナ。俺……なるべく早く、復縁できるように頑張るから」

「待ってます」


 俺は自分の意思と初心を思い出すために、再びここに誓うのだ。俺は、何としてでもレイナと復縁すると。



                    ◇



「Sランク? 流石ハイトね!」


 レイナの元を後にして、宿に帰った俺はラグナにも報告することにした。


「……ラグナも驚かないの?」

「そうね。だってハイトだもの!!」


 レイナの時もそうだったが、ラグナの俺への評価の高さには少し戸惑ってしまう。

 前世で俺が誰かに評価して貰えるなんてことはなかったから尚更だ。


「それより私は、最近ハイトに色目使ってきてる受付嬢の方が気になるわ!」


 そして、ラグナもレイナと同じく鋭かった。

 ……男の浮気はバレると前世で聞いて、浮気どころか彼女がいなかった俺は他人事だと聞き流していたが、よもや自分が痛感することになろうとは……


「ご、ごめんなさい」

「別に、謝る必要はないわ。ハイトほど強いオスならメスを囲うのは当然だと思うし――でも、そう言うことはちゃんと未来のお嫁さんである私に報告しなさい。

 ……さっきの話しぶりだと、レイナにもちゃんと報告したの?」

「そ、そのレイナにも……さっき、一応」

「なら良いわ」


 ……レイナと同じ事を言われてしまった。


「……でも、あんまりメスを増やされて、ハイトが私にあんまり構ってくれなくなるのは寂しいわ。そう言うことがしたいなら、私がいくらでもするから」


 レイナは顔を赤く染め、俯きながら俺の手を掴みラグナの胸の部分に俺の手を持ってくる。柔らかい。でもニーナや抱きつかれたときに感じたレイナのとは違う感触。

 ラグナはレイナやニーナよりも胸は小さい。かなり小さい。


 でもそれが、逆になんかこうグッとくるものがあった。


「ラグナ……」


 ラグナも、レイナも。こんなにどうしようもない俺を、好いてくれている。

 前世の俺なら。……いや、今世でも中身が腐っている俺だから、こんな幸せは一度手放したら二度と訪れないほどの奇跡なのだろう。


 だからこそ、大事にしたい。

 ……レイナと、ラグナと好きなだけいちゃいちゃするために。何人たりにともこの幸せを壊されたりしないように。


 俺は世界で一番強くなりたい。

 俺は初心に帰って、この世界に生まれ落ちたときの一番最初の目標を思い返しては新たに決意を固めるのだった。


 部屋に戻った後、レイナやラグナとの今日のあれこれを思い返して自家発電したことは言うまでもない。



                     ◇



「ハイトくん、いるかね?」


 翌朝。俺が泊まっている宿に、支部長が直々にやって来た。

 態々支部長自らが来るってことは


「Sランク冒険者になれる件ですか?」

「あぁ。今日はとりあえず、ハーメニア王と謁見して貰う。ハイトくんには不要の忠告だと思うがくれぐれも粗相のないようにな?」

「勿論です」


 これでも俺はこの世界に来て15年――数ヶ月前までは王女であるレイナと婚約者の関係にあるほどの、やんごとなき身分にあった男だ。

 この世界での礼儀作法は身についている。


 もう何十回目になるとも解らない王城に辿り着いた俺は、


 きっと、このまま何事もなければ、あの王様から無事にSランクの認定を貰えるだろう。そう考えるのは、フラグになりそうだなぁと考えていた。

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