『種付け』の最強の使い方

 農民に最初期から与えられている魔法『種付け』


 それは魔力次第でありとあらゆる植物をありとあらゆる存在に根付かせる、JROでも五指に入る壊れ性能の魔法である。

 そして今、俺がフォレストドラゴンに植え付けた『生命樹の種』はJROに存在する全ての植物の中で最も効率よく敵のHPとMPを削れる植物なのである。


 その速度は3秒ごとに2%

 フォレストドラゴンはHPとMPの両方を3秒ごとに1%ずつ回復するので、全て削りきるには丁度5分くらい掛る。

 尤も、並のプレイヤースキルじゃ削りきる5分の間にフォレストドラゴンに追いつかれて死ぬのだが……


 ドォン! と勢いよく振り下ろされたフォレストドラゴンの爪攻撃を躱す。


 ……俺の今のレベルは20。成長値も振り切っているから、JROのドラゴン討伐極限低レベル記録の倍以上のステータスがある。

 文字通り死ぬほどJROをやりこんで来た俺のPSは並大抵ではない!!


「『耕耘・レンコン畑』!! 更に『草刈り』!」


 俺は鍬を地面に突き立て泥沼に変換し、周りの木を数本切り倒してフォレストドラゴンの行く手を阻む。しかし、フォレストドラゴンはその圧倒的な重量を活かして、全てを振り払いこちらに突進してくる。

 その姿はまるで、俺の小手先の技なんて効かないと言っているかのようだった。


 しかし、フォレストドラゴンはHPと攻撃と防御と魔法防御のステータスは非常に高いものの、敏捷はかなり鈍足でその上ブレスのような広範囲攻撃を放ってこない――純粋な殴り合いで挑めば苦戦する相手だが、今回の『種付け』を活かした搦め手の技、定数ダメージを狙って粘る戦法にはかなり弱いモンスターでもあるのだ。


 JROでも極限低レベル縛りで倒せるドラゴンの中でも特に最弱の一角に数えられるのがこのフォレストドラゴン。

 なんともおあつらえ向きな、状況である。

 それこそまるでJROのスタッフが『農民』はここで拾える『生命樹の種』を活かしてフォレストドラゴンを討伐しなさいと言っているとさえ思えてくる。


 ドォォォォオオオン。


 そうして逃げ回っていると、俺の後ろから轟音が聞こえた。

 大重量のフォレストドラゴンが息絶え、倒れる音だった。


「う、疑ってたわけじゃないけど……本当に倒しちゃったわ! ドラゴンを」

「ふぅ」


 俺は無事に、けが人も出ずフォレストドラゴンを討伐できたことに安堵して、額の汗を拭った。……今世の肉体は体力にも自信があったけど、それでも結構疲れたな。


「ハイト、本当にスゴいわ!! まさかその歳でドラゴンまで倒しちゃうなんて!! ……ハイトが追いかけられている間、ホントひやひやしたし。怖かったけど。

 生きてて良かった――!!!!」

「おうふっ」


 ラグナが突進するように俺に抱きついてきた。

 ドラゴンとのサドンデス鬼ごっこで疲労が溜まっていたせいか、ラグナを受け止めきれずに地面に倒れる。

 俺の襟元をきゅっと掴みながら涙を浮かべるラグナの頭にポンと手を置いた。


「心配してくれて、ありがとな」

「当然じゃない! 私は、ハイトの将来のお嫁さんなんだから!」


 ラグナはそう言って、俺の頬にちゅっとキスをした。

 今回はノリと勢いで、ドラゴンに立ち向っちゃったけど……これからは、もっと慎重に、入念な準備をしてからしようとも思った。

 この世界はJROと違ってコンティニューなんてものはないのだから。


 俺はそんなことを考えながら、倒したドラゴンの素材と――アレを回収することにする。



                     ◇



 JROにおける『種付け』の攻撃魔法としての評価は、実は結構低い。


 と言うのも、そもそも最も効率が良いとされている『生命樹の種』を使ってHP回復のない敵を倒すときさえ最低でも2分半掛る上に、フォレストドラゴンのような、ドラゴンの中では比較的低レベルで、尚且つ全体攻撃技やブレスを使用せず、生命樹の種のダメージが自動回復量を上回るドラゴンがそもそも割と珍しいのだ。


 それにこの極限低レベルでのドラゴン討伐が発見された頃には俺を始めとして、JRO廃人の殆どはレベル90を越えていたりして、普通に殴って倒した方が速く効率も良かったという背景もある。


 しかし、攻撃魔法としての性能を意識しないならこの『種付け』はJROでも屈指の壊れ魔法と言えるだろう。

 俺はフォレストドラゴンの背中に生えた低めの生命樹から木の実をもぎ取って、それを食べる。


 シャリッと小気味良い音の歯ごたえから溢れる、リンゴのような甘い味。

 運動した後の乾いた喉を潤す、奇跡のおいしさだった。


「ラグナも食うだろ?」

「え? 良いの?」


 戸惑うラグナにも一つ、生命樹の果実をあげる。一つは、レイナにもお土産として持って帰ろう。


 そう考えて、生命樹の果実をポケットに仕舞う。

 この生命樹の果実は食べれば、種以上にHPとMPが増える効果のある魔法の食材だ。JROにおける『種付け』は主にこの生命樹の果実や種を量産するために使われていた。


 このスキルとアイテムがあったから、JRO廃人のHPとMPは皆上限値の65535だったんだよなぁ。でもアレは、コンピューターの上限値がFFFFだっただけで、こっちの世界では上限があるのかは果たして謎である。


 正直、この『種付け』による生命樹の果実の無限量産を知ったときは、流石に運営が調整をミスったと思ったし、ヤバいとも思ったけど……でも、HPとMPを上限まで持っていって、レベルも100を越えた辺りで向かった『あのフィールド』であっさりボコボコにされて殺された記憶もあるし、このくらいじゃ流石に慢心は出来ないけど。


 それでも一JRO廃人としては最低でもHPとMPをカンストさせたいし、ついでにレイナとラグナもカンストさせたいと思っていた。

 まぁこれは純粋な作業量がものを言う話だし、一朝一夕で出来ることでもないからゆっくり目指していきたいとは思うけど。


 そんなこんなで俺たちは生命樹の果実を全て回収して(果実は食べ終わったら種を取り出して乾燥させる予定)ドラゴンの死体をラグナと二人で頑張って引きずってギルドまで戻った。

 多分1tはあったけど、丸い木の枝を敷いたりラグナの赤魔法や俺の耕耘などを活用して工夫しながら何とか運びきることが出来た。


「つ、疲れたわ」

「だな。討伐より運搬の方が疲れたかもしれん」


 マジでへとへとである。だが、フォレストドラゴンの討伐とその素材の提出があれば今週の毎週課題で負けることはあり得ないだろう。

 俺たちは今から、冒険者ギルドに報告しに行く――




―――――――――――――――――――



落ちこぼれとされてる『農民』とEクラスの『赤魔法使い』が入学二日目からドラゴンの死体を引っ張ってやって来ましたね!

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