第134話 撤退戦

『風舞』


風が収束して確実にゴブリンの一体を消滅させるが、これで使えるのはあと二回。


「凛くん、救援要請できました」

「じゃあ、次が来る前に逃げよう。この周辺にサバイバーっているのかな」


自分から言い出しておいて、あれだが今いる場所の周辺に民家はほとんど無く、たまたま立ち寄るような場所でもない。

数分で来てくれるような場所にサバイバーがいる可能性は薄い。

唯一の望みは俺たちと同じように動物園に来ていたサバイバーがいる可能性だが、藁をも掴むような話だ。

とにかく、自力でこのエリアから離脱するのを最優先に考えるしかない。

おそらく、背を向けて全速力で逃げたとしても、俺たちよりゴブリンの方が速い。

倒しながら距離を取り、民家のあるエリアまで逃げ込む。

これしかない。


「葵、ゴブリンを倒しながら下がろう」

「わかっています」


目の前にいるゴブリンはあと三体だ。

とにかく次の集団が来る前にこいつらを倒してできるだけ距離を稼ぐ。


「さっさと消えてしまえ!『ライトニング』」

「『ウィンドカッター』これであと一体です」


スキルを放ちながら、来た道を一歩ずつ下がっていく。


「あれを倒したら走るよ」

「はい、わたしが倒します『エクスプロージョン』」


葵がスキルを放つと同時に背を向けて走り出そうとするが、前方には既に三体のゴブリンの姿が見てとれた。


「くっ、早すぎる」


先程までいた敵を倒しきる前にもう次の敵が現れた。

しかもこの三体が最後だと考える事ができるほど、楽観主義者ではない。


「葵、突っ切ろう!」

「わかりました。いきます。『エクスプロージョン』」


葵のスキルの発動と共にゴブリンに向かって走り出す。


「おおおおっ!『ライトニング』」

「邪魔です。燃えてください。『エクスプロージョン』」


いける。このまま抜ける、そう思った瞬間事態は急変する。

突破するために前方へと進もうとした瞬間、山の斜面から、先程の三体の倍にあたる六体のゴブリンが飛び出してきた。

これで既に三十体ものゴブリンが出現したことになる。


「凛くん、まずいです」

「そうだな、また数が増えた」

「そうじゃないんです。これで三十体なのでもっといる可能性が高いです。それだけの数の群体であれば恐らくどこかにリーダーがいます」

「ゴブリンのリーダー? 前に戦ったゴブリンファイターとかか?」

「いえ、この数をまとめるリーダーならそれ以上です」


ゴブリンファイター以上という事はまさかゴブリンロード?

Cランクに位置するモンスター。

Eランクの俺たちにこのゴブリンの群れとCランクモンスターを相手になどできるはずもない。

ゴブリンの後方にゴブリンロードがいないかと目をやるが、それらしき個体は見えない

一刻も早く前方に立ち塞がるゴブリン六体を排除しなければならないが、それよりもUターンして、逆方向へと逃げるか?

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