第50話 涙のクリスマス
「凛くん大丈夫ですか? 私何かしちゃいましたか?」
「え……」
気づかないうちに俺の目からは涙がこぼれ落ちていた。
慌てて涙を拭い、顔を背けるが完全に葵に見られてしまった。
「こ、これは、そういうのじゃ無いんだ。葵のせいとかじゃない。あ、汗が……いや、本当は葵のプレゼントが嬉しくて」
猛烈に恥ずかしい。こういうのは女の子が涙ぐんだりするのはイメージ出来るが、俺が涙ぐむどころか涙を流してしまうなんて、おかしな奴と思われただろうか。
人間、自分の想像にも無い事が突然起こると、身体が思いもよらない反応を示すのかも知れない。
涙を流した事などいつ以来だろう。
しかも今回のような涙を流した記憶など一度も無かった。
恐る恐る葵の方を向くと、なぜか葵まで泣いていた。
「初めて編んだので自信無かったのに、凛くんがそんなに喜んでくれると思わなくって。よかった……」
ああ、この子はなんて……
やばい、また涙が溢れて来てしまった。
俺は情けない事に十二月二十四日に柄にも無く大泣きしてしまい、一生忘れる事の出来ないクリスマスイブとなった。
翌日からは、学校が休みになったので、朝から葵と二人で自転車で街を廻ったが、十二月二十五日はクリスマスなので街はカップルで溢れていた。
毎年十二月二十五日は家に籠っていたので、今まで気づかなかったが街行く人を見て世の中こんなにカップルがいるのかと驚いてしまった。
「凛くん、それ、巻いてくれてありがとうございます」
「ああ、凄くあったかいよ。葵も着けてくれてありがとう」
「はい、すごく可愛いです」
葵が編んでくれたマフラーは、変な話だが葵の優しい気持ちがこもっている様な気がして物凄く暖かかった。
葵も朝会うとプレゼントした時計を着けてくれていて、嬉しくなってしまった。
残念ながらこの日も、他のサバイバーの戦闘シーンに出会す事は無く終わってしまった。やはり、他のサバイバーに偶然出会う確率は低い様だ。
次の日も同じ様に朝から自転車に乗って廻ったが、この日は運良く三人組のパーティがオークと交戦している所に出会す事が出来た。
「死ね、死ね! この豚野郎! 『ファイアボール』」
「一気に倒すぞ! 『アイスバレット』」
「これで決めるぜ『ストーンブリッツ』」
三人共が攻撃型の様で三人で一斉に攻撃をかけてオークを消滅させた。
「余裕だな」
「ふっ……俺達の敵じゃないな」
「土に還ったか」
三人共オークを倒して悦に入っているようだが、戦い方を見る限りそれ程高ランクのパーティではないと思う。
新城といい、3人組の低ランクパーティは妙に粋がっているサバイバーが多いのかも知れない。
『アイスバレット』と『ストーンブリッツ』は今まで模倣した事の無いスキルだったが、今の戦いを見る限り『ファイアボール』と大差無い気がするので、今回は模倣するのをやめておいた。
戦闘が終わったので、その場を去ろうとしていると三人組が俺達に気が付いて声をかけてきた。
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