第44話 告白

何も言わずに先に帰ってしまったとも思えないが、俺はそろそろ帰った方がいいのだろうか。

葵が迎えに来てくれる様になってからこんな事は初めてなので、どうしていいのかわからない。

それから更に十分ほど待っていると、廊下を走る足音が聞こえて来た。


「はぁ、はぁ、はぁ。凛くん本当にごめんなさい。なかなか離してくれなくて……」


息を切らながら葵が教室に飛び込んで来た。


「いや、別にそれはいいんだ。でもどうかしたの? 心配したんだけど」

「本当にごめんなさい。私は用があるって言ったんですけど……」


ん? どう言う事だろう。誰かに捕まってたって事か?


「それって一体…………」


俺が事情を聴こうとすると葵は答え辛そうにボソッと答えてくれた。


「えっと……告白です…………」

「え? 何?」

「いえ、ですので告白です」

「告白?」


告白ってなんだ? 予想して無かった答えに一瞬頭がうまく働かなかったが、徐々に意味が理解できてきた。

告白って告白か! 誰かが葵に告白したって事か。


「こ、告白されたんだ?」

「はい……四人ほど」

「よ、四人!?」

「はい。クリスマスに一緒に過ごしてほしいと……」

「あ、ああ、クリスマスか。それで……」


終業式とクリスマスのタイミングで告白したのか。

葵は学園のアイドルなので告白されるのも無理は無いと思うが四人も?

俺はあまりに予想外の出来事の話と人数の多さにテンパって動揺してしまった。


「それでなかなか帰らせてもらえずに遅れてしまいました。本当にごめんなさい」

「そ、そうなんだ。それで……返事は?」

「え? もちろんお断りしましたよ。クリスマスは凛くんと約束してるじゃないですか」

「あ、ああ、そう、そうだね」


葵が告白を断ったと聞いてホッとしている自分がいる。

葵が告白を断ったからと言って俺の事を好きになってくれる訳ではないのに……

これは重症かもしれない。


「ああ、それじゃあ行こうか。それにしても四人ってすごいな。葵はいつもこんな感じなのか?」

「いえ、普段はたまにですけど、クリスマスとかバレンタインとかの時はこんな感じになったり……」

「そ、そう。やっぱり葵はモテるんだな」


イベントの度に何人もから告白されるってどれだけモテるんだ? 葵に人気があるのは知っていたがこれ程とは思ってもみなかった。

二人で並んで校門まで歩いていくと、前方から校門に立っていた男子が走ってやって来た。


「若葉さん! ちょっといいかな」


男子生徒は当然俺の前ではなく葵の前に立ち声をかけて来た。知らない顔だが、よく見ると結構イケメンだ。身長も高くてすらっとしているので見るからにモテそうだ。


「いえ、今はちょっと……」

「時間は取らせないから、どこかカフェでも行かないか」


マジか……

俺が横にいるのに完全にスルーされている。こいつ俺を置いて葵と二人でカフェに行くつもりか?

まさか俺の事が見えて無い……のか? いや、この至近距離でそれは無いな。


「すいません。私はこれから予定がありますので」

「若葉さん、今日の予定を俺にくれないか? 君に最高のクリスマスを用意するよ」

「いえ、結構です。今日の予定は凛くんでいっぱいですのでごめんなさい」

「凛くん? 凛くんって誰? まさかとは思うけどそいつじゃないよね」


ああ、やっぱり見えてはいたのか。

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