第28話 天使はダブルスキルホルダー


「葵、今日の夕飯分としては多過ぎない?」

「明日と明後日の分も買ってるんですよ」

「え〜と葵さん。それは明日も明後日も葵さんがご飯を作ってくれると言う事でしょうか?」

「もちろんですよ。お昼のお弁当も作りますので安心してください」


どうやら葵は今日の晩ご飯だけでは無く三日間も作ってくれるつもりの様だ。

葵の手作りのご飯を三日間も食べられるのか。

これは葵には感謝しかない。

最近カップ麺の食べ過ぎのせいか、時々変な湿疹が出たりしてたから本当はちょっと心配だったので、純粋に

有り難い。

家に帰ると早速葵が料理を作ってくれる事になった。

この部屋のキッチンがまともに使われるのはこれが初めての事なので、葵がキッチンに立って料理をしてくれている事と合わさって違和感しかない。

俺が今までキッチンでやった事あるのはお湯を沸かす事のみなのだが、四日後にはまたお湯を沸かす俺がいるのが目に浮かぶ。

せめてこの三日間は久々 の手作りご飯を堪能したいと思う。

しばらく待っていると、晩ご飯が出来上がったが、なんと炒飯、麻婆豆腐、玉子焼きにサラダと中華スープまで出て来た。


「葵、晩ご飯にこんないっぱい品数があるなんて頑張りすぎて無い?」

「このぐらい普通ですよ」

「いやでも、五品だよ!」

「どうぞ召し上がってください」

「……はい」


一人暮らしをしてからは、晩御飯といえばカップ麺の一品のみ。その前に母親と住んでいた時でも母親が作ってくれるのはメインのおかずと良くてサラダが付くぐらいだったので、五品は俺の中では凄い事なのだが、葵の反応を見る限り葵にとってはこれは普通の事なのか?


「いただきます」


箸を伸ばして食べてみるが、どれも感動的に美味しい。

当たり前だがカップ麺とは違い手作りの味がする。


「お味はどうですか?」

「おいしい……」

「本当ですか!? お口にあって良かったです」


俺がおいしいと伝えると葵が弾ける様な笑顔を見せてくれた。

葵は学園のアイドルなんて言われているが、アイドルって言うよりも天使だな。ボッチの俺の食生活に光をもたらしてくれた天使だ。


「おいしかったです。ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」


誰かとこのやり取りをするのはいつ以来だろうか。

なんとなく恥ずかしい感じと共に心が暖かくなる様な気がしたが、それ以上に葵がお粗末様でしたと言うのを聞いて、これが定型文なのは理解しているが、このご飯のどこが粗末なんだ、そんなのあり得ないだろうと思ってしまった。

食後、今後の為にサバイバーとしてのお互いの手の内を話し合う事にした。

俺の場合は、この前ほぼ全てを見せてしまったので余り話す内容も無かったが、前回使用していた『ウェイブブレイド』を『エクスプロージョン』に上書きした事だけ伝えておいた。

実際にサバイバルナイフを使用してみて、俺の劣化版『ウェイブブレイド』は実際の刃物で代用出来ると手応えを掴んでいた。

近接戦闘ではゴブリンにさえ遅れをとってしまったので、それよりも、中遠距離からのスキル攻撃を充実させた方がいいだろうと言う俺の判断だ。

そして一番驚いたのは葵がダブルスキルホルダーだったと言う事だ。

前回使用していた『エクスプロージョン』の他にもう一つ『ウィンドカッター』と言う風を操るスキルを所有していたのだ。

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