第110話【交渉の結末と同業者との交流】
「ーーーと言う事でケリはつけてきました。
ただ、ホーリクの方はともかくフォルクさんは納得せずに何か言ってくるかもしれません」
翌日、僕はビガントの工房で今回の
「うちは単独の鍛冶屋だから立場上悪い噂を立てられるとかなりのダメージを受けるんです。
多少の譲歩をしてまるくおさめた方が良いですかね?」
ビガントは口下手な性格から争い事は苦手で多少の損をとっても穏便にすませたい様子だった。
「うーん。あまり相手を付け上がらせたくないのですが、ビガントさんがそう言うならば仕方ないですかね」
僕達が今後の方針を議論していると店先から声がかかった。
「すまないが店主は居おるか?ちょいと相談があるんじゃが」
そこに現れたのは昨日酒豪決闘をしたドラブだった。
後ろには同じような背格好の男達が3人程一緒に来ていた。
「はい。店主は私ですが、どちら様ですか?」
いきなり現れた男達に尻込みするビガントの横で僕は笑顔で挨拶した。
「ああ、ドラブさん昨日はどうも。あれから体調は大丈夫でしたか?」
「おお、お前さんも居おったか。体調は問題ないぞ。
そこに鍛冶士の娘も居おるし、ちょうどいいから話をしていこうか」
「あっこちらにどうぞ、お酒はありませんが紅茶をいれますので」
クーレリアはすぐに奥の台所に向かい、紅茶の準備をした。
「いや、突然来てすまない。
昨日の依頼を受けた料理人にこちらで売った包丁を見せてもらってから仕上がりの良さに頭から離れなくてな。
ワシらも鍛冶職人としてそれなりに腕に自信がある者ばかりじゃがあれほどの品を打つ者はおらん。
職人の技術は
紅茶を運んできたクーレリアにドラブがお願いをしてきた。
クーレリアは僕を見るとどうしたら良いかと判断を投げてきた。
「で、こちらのメリットは何ですか?」
仕方なく僕が間に入って話を進める。
ドラブは気を悪くした様子は無かったが疑問に思ったのだろう僕に聞いてきた。
「昨日もお前さんが代理だったが、こちらのお嬢ちゃんとの関係を聞いても良いかのう?」
「当然の質問ですよね。僕は彼女のスポンサーであり技術情報の提供者です。
後ろ楯ととってもらっても良いですよ」
僕の言葉に頷うなずいたドラブは話に戻った。
「なに、職人としての興味本意だからたいした対価は払えんが、どうだワシ達の鍛冶士グループに入る気は無いか?
なに、入ったからと言って全ての技術情報を出せとは言わないから安心してくれ。
ワシらもそれぞれ独自の技術で鍛冶をしてるから人の技術で飯を食おうとは思っとらんよ。
まあ、依頼情報の共有が主たる意義じゃよ」
後ろに控えていた他のメンバーも頷うなずきながら肯定する。
「いいんじゃないか?ただし、外に出したくない情報は
「「「「守ろう。鍛冶の神に誓って」」」」
全員が誓いの言葉を唱えたのを見た僕はクーレリアに向かって
「ーーーでは、これから作業にはいりますのでお静かにお願いします。
作業中の質問はお受け出来ませんので了承ください」
クーレリアはそう告げると鉄塊と向き合った。手にはあのハンマーを持って。
カンカンカン。鉄を打つ音が工房に響く。
ドラブ達は黙ってその姿を見ていた。
やがて打ち音が変わり仕上がりが近づいてきていた。
「そろそろだな」
ドラブが呟いた時、クーレリアは打ちあげた鉄塊を冷却水に浸けた。
『ジュワー』
熱を持った鉄塊が冷やされてその密度を強固なものに変える。
姿を現したのは、まだ磨かれてはいない包丁の元形。
しかし、既に名刀になる素質は十分に備わっている事はドラブ達には伝わっていた。
「これを磨きにかけますので、ちょっと待ってくださいね」
元々、加工や磨きが得意だったクーレリアはテキパキと包丁を磨きあげていった。
それから半刻もしないうちに一本の名包丁が世に生まれた。
「出来ました。どうぞ御覧くださいね」
クーレリアは持ち手を付けた包丁をドラブに手渡すと一息ついた。
それを受け取ったドラブ達はその包丁の美しさに驚愕きょうがくの目で凝視していた。
「なるほど。あの料理人どもがお嬢ちゃんを欲しがる訳だよ。
この短時間でこんな包丁を生み出されたらワシらじゃ太刀打ち出来そうに無いからの。
見たところそのハンマーに秘密があるようじゃが見せて貰っても良いかの?」
さすがに一流の鍛冶士。一目でハンマーの特異性に気がついたようだった。
「いいですけど重いので気をつけてくださいね」
「重い?あれだけ軽快に振り下ろしておいて?」
クーレリアから手渡されたハンマーを受け取ったドラブはさらに
「なんだこのハンマーは!?」
その後、クーレリアは鍛冶の神から祝福された指輪によってハンマーを扱える事。
指輪は選ばれた者しか使えない事。
まだ安定しないので武器は作らない事をドラブ達に説明して他の人には絶対に話さない契約をとりつけた。
「では、今後はいろいろと協力しあおうぞ。
いや、今日は実に有意義な日じゃったよ。ありがとう」
ドラブ達はそう言うと楽しそうに自分達の工房へ帰っていった。
「ドラブさん達とも友好が築けたし、それなりにやって行けそうで安心しました。
では僕も戻りますね。
また、何かあったらデイル亭まで連絡してくださいね」
「何から何までありがとうございました」
ビガントが深々とお辞儀をしてお礼を言ってきたので僕は照れながらも挨拶を返してからデイル亭への帰路を急いだ。
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