第73話【傷薬の納品とモニターの募集】

ーーーからんからん。


 いつもの冒険者ギルドのドアベルの音が響いた。


「ようこそ!リボルテ冒険者ギルドへ。

 本日はご依頼ですか?お食事ですか?」


 入ってすぐに案内嬢から声がかかった。

 後で聞いた事だが、ここの案内嬢は常連の冒険者はほとんど把握しているらしく、初顔の客が来るとすぐに声かけをする接客指導が徹底されているらしかった。


「あっ、カイザックのギルドで受注した依頼の報告と依頼品の納品をするために来ました」


 僕の代わりにシミリが説明してくれた。

 まあ、案内嬢もシミリの方を向いていたからその流れになっただけだけど・・・。


「依頼報告ですね。ありがとうございます。

 ではこちらのカウンターにお願いします。

 サリー!依頼完了報告対応をお願いね!」


「はい!了解しました。

 ではこちらにお掛けください」


 サリーとよばれた女性は僕達を窓口カウンターへ案内すると座るように促してから詳細を求めた。


「では依頼書の提示をお願いします。

 あと納品物の準備もお願いしますね」


 日頃から完了報告の担当なのだろう、手際よく書類の確認と必要書類の準備をこなしていった。


「傷薬の納品ですね、本当に助かります。

 最近は鉱山で怪我をする人が多くて薬が品薄になっていたので近隣の街にも依頼を出していたのです。

 あと、効果を確かめるためのサンプルはありませんか?

 今回の依頼料は依頼書にあったように基本金額をベースに薬の効果で増減させてもらうようになっていますので・・・」


「ああ、それならこれを使ってもいいですよ。

 今回の納品分と同じものですが自分達用に持っていた予備ですので」


 僕は鞄から新しい薬の瓶を3本程取り出してサリーに渡した。


「ありがとうございます。

 すみません、あなた方を疑う訳ではありませんが、前に効果の低い粗悪品を納品された商人がおられましたのでギルドとしての対応策でこのような依頼内容になっているのです」


 僕達がその言葉に頷くとサリーは併設されている酒場に向かって声をかけた。


「お客様の中で怪我をされている方はいらっしゃいませんか!

 今から先着順で3名程無料で今回納品された傷薬の効果モニターを募集します!

 もしも効果がなければこちらに納品者が居ますので酔いつぶれるまで酒を奢おごってもらって良いですよ!」


(おいおいおい。いきなり何を言い出すんだこの女は!?)


 僕が驚いた顔でサリーを見ると、何でもない事のように笑って治験者を募る彼女が言った。


「薬に自信あるんでしょ?

 こうでも言わないと誰も初めて見たの商人が持ってきた薬なんて使ってくれませんよ?

 前に粗悪品を持ってきた商人は相当な金額の酒を飲まれていたわねー。

 まあ、自業自得だけどねー(笑)」


(なるほど、そういうことか。

 確かにカイザックでも薬の効果を確認しないと登録も難しいからな。

 まあ僕は領主公認のアレがあるからそれほど大変ではないけれどね)


「オルト君、それこそあのプレートを見せたら解決する案件じゃないですか?

 領主様公認なんだし・・・」


「僕もそれは少し考えたんだけど、無理矢理押し通すよりもこの流れを見てみたい気持ちの方が強かったりするんだよ。

 郷に入れば郷に従えってね」


「最後の言葉の意味は分からないけどオルト君がそう言うならばそうした方がいいのでしょうね」


「まあ、暫く様子を見るとしようよ」


 僕はシミリとの内緒話を済ませるとサリーが募る人達を眺めていた。


 ーーー暫く募集を続けていると、すぐに3名の男女が名乗りをあげた。


「では定員になりましたので募集を一旦切ります。

 早かった順番に出てきて怪我の箇所と内容を教えてくださいね」


 その言葉を聞いた者達が順に声をあげだした。

 最初はガッシリとした筋肉を持つ40歳くらいの男性だった。


「最初は俺だ!昨日の鉱山作業で落石に会っちまって左肩をやっちまったんだ。

 おかげで腕は上がらねぇし鉱山の仕事も出来ねぇから薬も酒も買う余裕がねぇでかなり困ってるんだ。

 なんとかならねぇか?」


「外傷に打ち身ですね。

 ならばこの傷薬で対応出来ると思いますよ。

 飲むタイプの傷薬ですので一瓶全部飲んでください」


 男は言われるとおりに一瓶全部の薬を飲み干した。


「で、こいつはどのくらいで効いてくるんだ?さすがに2~3日では完治は無理だろうな」


「いえ、その程度の怪我ならば数分もあれば完治すると思いますよ」


「「「「「はあっ!?」」」」」


 僕の言葉に周りで見物していた人達がいっせいに声をあげた。


「そんな訳ないだろう!

 そんな即効性のある薬なんてそれこそ王都でしか手に入らないバカ高い上級ポーションくらいだぞ!?」


「そんな訳ないだろうと言われても、実際もう左肩は痛くないでしょう?」


 僕は男の左肩を軽く“ポン”と叩いて完治の確認をした。


「痛っ・・・くない?本当まじに痛くないぞ!」


 男は驚いた顔で左肩をぐるぐると回して完治をアピールしていた。

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