第167話 さよりちゃんの目的
お見合いは当然だが一方的なものではない、コン君側が相手を見定めようとしているように、相手側もコン君のことを見定めようとしている。
金銭的な面などでコン君が優良物件扱いされていて、お見合い希望者が殺到していて、選ぶ側に立っているのは確かだけども、それは絶対的なものではなく、あくまでやや優位……という感じらしい。
そして今回お見合いすることになったコン君のお友達、可愛らしい女の子の市杵島さよりちゃんは……最近仕事もせず、かといって友達と遊ぶ訳でもなく、我が家に入り浸っているコン君のことが気になって……よからぬ遊びをしているんじゃないかと勘ぐってしまって、こっそりと様子を見に来た……らしい。
そしてそれはあくまでこっそりと、バレないようにやる前提のもので、俺に見つかってしまうというのは完全に想定外のことで……それでさよりちゃんは困ってしまって、黙り込んでしまったんだそうだ。
そこら辺のことをスマホの向こうのテチさんが上手く聞き出してくれて、流石は保育士だなぁと俺が感嘆していると、そんな俺にテチさんは、
『お昼休みになったら戻ってくるから、それまでなんとか間をもたせていろ』
と、そう言って通話を切ったのだった。
「えーっと……コン君はまぁ、俺の手伝いをしてくれたり、料理とかを一緒に作ってくれたり、それとまぁ俺の趣味の保存食作りを一緒にやってくれていた訳で、やましいこととかはないと思うよ?」
テチさんとの通話が終わり、今のちゃぶ台の前にちょこんと……きっちり背筋を伸ばした正座で座ったさよりちゃんにそう声をかけると、さよりちゃんは……目をきっと釣り上げた真っ直ぐな表情をこちらに向けてくる。
俺の言葉が信用できないというか、俺という存在が信用できないというか……恐らくはそんな思いでそうしているらしいさよりちゃんに、さてどんな言葉をかけたものかと俺が困っていると……さよりちゃんの隣に座ったコン君が声を上げてくる。
「さよちゃん、ミクラにーちゃんは怖くないから大丈夫だよ。
オレ一度も怒られたことないし、オレが食べたいっていったもの作ってくれるし、テチねーちゃんとも仲良いし、悪い人じゃないよ」
そんなコン君の言葉を受けてさよりちゃんは、コン君の方をじっと見て……それから俺にキッと強い視線を送ってきて、もう一度コン君を見てから、俺に向かって声をかけてくる。
「失礼しました。
人間さんを直接見たのは初めてだったので、怖くなっちゃっていました。
……正直まだちょっとだけ怖いのですけど、コン君がそう言うなら信じることにします。
……信じるついでに、その、質問なのですけど……本当にコン君と料理をしているのですか?
いえ、噂でそんなことをしているとは聞いてはいたのですけど……男の人が二人で本当に?」
「ん? うん、本当だよ。
基本的には俺が中心になってやっているけども、コン君が中心になって頑張ったこともあったし……料理に関しては男がどうとか関係なく、出来た方が良いスキルだからねぇ。
健康に直結することでもあるし……コン君と一緒に頑張って、もっと上手く出来るようになれたら良いなと思っているよ。
何ならさよりちゃんも、時間がある時に一緒にやってみるかい? ただ見学するだけでも歓迎だよ」
そう俺が言葉を返すとさよりちゃんは、少し俯いて考え込んでから……コン君と俺のことを交互に見ながら言葉を返してくる。
「……見学もそうですね……したいとは思います。
ですがその前に……その、疑う訳ではないのですが、本当にそうだと言うなら一つ、料理を作って見せて欲しいなと思うのですけど……可能ですか?」
その言葉に俺とコン君は、お互いの目をみやって、アイコンタクトをして……まぁ良いんじゃないかな? との言葉のない会話を終えてから同時にこくりと頷く。
そうしてから今の時計を見上げた俺は……もうそろそろお昼だなと膝を叩いて立ち上がり……「じゃぁすぐに用意するね」と言って、台所へと向かう。
それを受けてコン君は、居間の隅に置いてあった鞄を掴み、中から割烹着などを取り出して装着し始め……しっかりと料理の準備を整えていく。
俺もまた手を洗ったりエプロンをしたりとし……そうしてから冷蔵庫の中を確認してから、流し場へと駆け上がったコン君に声をかける。
「じゃー、今日はコン君にもできそうなピザトーストにしようか?
ケチャップ塗って具材を切って乗せて、チーズを乗せて、後はオーブントースターで焼くだけ。
簡単で美味しくて野菜も採れるから悪くないお昼ごはんでしょ?」
「ピザ! トースト!!
なつかしーなー、最初に食べさせてもらったご飯だっけ?
……うん、あれならオレでも頑張れるし、テチねーちゃんとさよちゃんとの4人分、作っちゃおう!!」
するとコン君はそう勢いの良い声を返してきて……それを合図に俺達はピザトースト作りを初めていく。
まずはピーマンを洗って食べやすい大きさに切って、玉ネギの皮を向いてこれまた食べやすい大きさに切って。
そして市販のベーコン……は品切れなので、ちょっとお高めの美味しいウィンナーを斜め薄切りにして……ちょっと贅沢に、チーズは良いやつを多めに使うとしよう。
コン君に手伝ってもらいながらそこら辺のカットが終わったなら、パン一枚一枚にケチャップを塗っていって……具をしっかりと崩れてしまわないよう丁寧に乗せていく。
そして最後にチーズを乗せて……たっぷりと乗せて、オーブントースターに並べたらスイッチオン。
焼き上る前の間に使った道具の片付けや洗い物をこなしていき……ついでにピザトーストを乗せるようにお皿なんかを用意しておく。
「ちなみに、具材を多めにするとか大きめにしたいとか、早く焼き上げたい場合は、火の通りにくいピーマンと玉ネギを先に炒めておくっていうのも一つの手だね。
その時にお出汁を絡めたりとか、マッシュルームとかハーブとか塩コショウとかと絡めたりして、下味をつけても美味しくなるかな。
トマトソースまで自作とかしてこだわるとうんと美味しくなるんだけど……流石にそこまでするとなると手間がかかりすぎるから、時間がある時だけになっちゃうね。
ケチャップじゃなくて市販のピザソースにするってのなら簡単だしありかもしれないね」
片付けとお皿の用意が終わったなら、そんな雑談をしながら焼き上がりを待ち……焼き上がったならあつあつのをお皿に乗せて、居間のちゃぶ台へと持っていく。
ついでにカップと牛乳も持っていって……カップになみなみ注いだら準備完了、ちょうどいいタイミングでテチさんも帰ってきてくれて……テチさんの手洗いうがいが終わるのを待ってから、皆で手を合わせていただきますと、声を上げる。
そうして俺とコン君とテチさんと、それと目を丸くしているさよりちゃんの4人で、出来たてのピザトーストへとかじりつくのだった。
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