第93話 ソーセージ作り 茹で


 ニュルニュルとタネがソーセージガンから押し出されてある程度形が出来上がってきたら……コン君にソーセージガン本体を預けて、本体を支えていた手を離し、さっと素早くソーセージを掴んでクルンとねじる。


 1回だけでなく数回ねじり……回数が多すぎなければ腸が切れたりはしないはずなのでとにかく手早く、さっさとやっていく。


 正式にはただねじるだけでなく、輪っかを作りその中を通してねじって、干しやすい形に整える必要があるのだけど、今回はすぐに食べるのでねじる間隔というか、ソーセージの大きさだけに気をつけてやっていく。


 そうやってソーセージガンの中身が空になったなら、銃口から腸を外し……余計な部分はハサミなどで切ってしまって、しっかりと縛ったなら完成。


「よしよし、これでひとまずチーズは完成だね、早速鍋を用意して火を通しちゃおうか」


 出来上がったソーセージを一旦まな板の上に置いて、大きめの鍋を用意してその中に水を溜め込んでいると……空になって軽くなったソーセージガンを、まるでガンマンが銃を打ち終えた時かのように構えてみせたコン君が、感無量といった表情でふるふると振るえる。


「ソーセージ作っちゃった! ソーセージを作っちゃった!」


 そうしてそんな言葉を口にするコン君のことを微笑ましい気分で眺めながら鍋をコンロへと移動させ火を点けて……沸騰するまでの間に、ソーセージガンを受け取り、次の使用のために一旦解体し、中をブラシで掃除し、綺麗にしていく。


「感動している所悪いけど、ソーセージ作りはまだまだこれからが本番だよー。

 次は御衣縫さんの干し本シメジで和風味付けに挑戦して、その次はキャベツと玉ねぎで野菜多めソーセージ、そして軟骨とハーブのセット、最後はお出汁とタケノコのセットにするからねー。

 まだまだコン君には頑張ってもらうよー」


 そう言うとコン君は、目をキラキラと輝かせてからウンウンウンと激しく頷いて……次のトリガーのため体を休ませようと思ったのか、椅子にゆっくりと腰かけ、堂々たる佇まいを見せてくる。


 その姿に小さく笑って……そうこうしているうちに片付けが一段落し、鍋の水が沸騰してきたので、ソーセージを鍋の中に投入……キッチンタイマーでもって、しっかり2分加熱していく。


 すぐに食べるのならそこまでしっかりしなくても良いのだろうし、何だったらそのまま焼いてしまっても良いのだろうけども……それでもこっちの方が安心できるからね、我が家ではこういう作り方にしていこうと思う。


 茹でた後に焼いても、それはそれで美味しくなってくれるしねぇ。


 茹で上がるまでにまた片付けや洗い物をし……茹で上がったソーセージは大皿の上に盛り付けて、テーブルの上に置いて冷めるまではそのままにしておいて……道具などをしっかり洗えたら、もう一度タネを練るところからやっていく。


 次は御衣縫さんの干し本シメジソーセージだ。

 干し本シメジを食感を感じ取れるくらいの大きさに刻み、味付けは醤油にし、後はさっきとほとんど同じ感じで進めていく。


 練って押し込んで茹でて、練って仕込んで茹でて。


 そうやってそれなりの時間をかけて作業をしていって……テーブルにいくつもの大皿が並び、冷めたものからふんわりとラップをかけていって……。


「うぅん……結局、誰も来なかったねぇ。

 ……まぁ、お昼くらいになるかもって言っていた人もいたけどさぁ……」


 なんてことを言いながら片付けを始めようとしていると……車の音が聞こえてくる。


 そのエンジン音はレイさんの配達車のもので……庭の少し向こうで停車し、バタンバタンとドアを閉める音が響いきたかと思ったら、レイさんの声が縁側の方から響いてくる。


「おーい、少し遅れちまったけども……なんだ、まだ火も起こしてないのか?」


 そう言われて縁側の方へと視線をやると、レイさんと彌栄さんの姿があって……俺は片付けの手を一旦止めて言葉を返す。


「まだ皆さん来てないんですよ、テチさんも何処かへ行ったままだし……。

 とりあえずソーセージは一通り出来上がりましたし、お肉もお野菜もソースも準備は出来ているんで、火をおこしてしまえばすぐにでも食べられますよ」


「おー、良いねぇ!

 倉庫の冷蔵庫、ちょっと借りるぞ、デザートを色々作ってきてやったんだが、まぁ、デザートの出番は当分先だろうし、それまでは冷蔵庫の中に置かせてもらうとするよ。

 火起こしもこっちでやっとくから、お前はそのまま飯の準備を進めておいてくれよ」


「了解です。

 と、言ってもほとんどの作業は終わっちゃいましたけどね」


 と、俺がそう返すとレイさんは彌栄さんと一緒に、ひらひらと手を振りながら車の方へと戻っていって……デザートを冷蔵庫にしまい、バーベキューグリルでの炭火お越しをし始めてくれる。


 元々バーベキューグリルはレイさんに借りたものだったので、そこら辺の作業はお手の物といった所なんだろう、片付けの途中チラチラと様子を見てみるが、全く問題なく進んでいるようだ。


 それから少しすると今度は、


「おうっす! 少し遅れちまったが、来てやったぞ!

 よしよし、丁度これからってところの良い塩梅じゃねぇか。

 ……お? なんだよあるれい、準備をサボって美味しいとこだけ貰うために意図的に遅刻しやがったって顔してんな?

 そうだよ、その通りだよ。そもそもオイラみてぇなタヌキの手を借りるなんてこと、最初から期待すんじゃねぇよ。

 その代わりといっちゃぁなんだが、かみさんが実椋君にも負けないうんまい握り飯を作ってきてくれたし、おいらだってほれ、とっておきの日本酒、もってきてやったんだぞ」


 なんて声が聞こえてきて……どうやら御衣縫さんと奥さんも到着したようだ。


 それからテチさんのご両親と、コン君のご両親もやってきて挨拶をしてくれて……庭が賑やかになっていき、レイさんが野菜やら肉やらを取りに来て、冷蔵庫にしまっておいたトレーごと、それら全てを庭に運んでいく。


 そうして聞こえてくる声は乾杯の音と肉の焼ける良い音で……たまらない美味しそうな匂いまで漂ってくる。


「コン君、片付けはもうすぐ終わるから先に向こうにいって楽しんでいいよ?」


 俺がそう言うとコン君は、顔を左右に振ってテーブルの方へと視線をやる。


「オレが今楽しみなのはソーセージだから! 向こうに行く時はソーセージと一緒だから!」


 二度目の料理となるソーセージ作り。

 その成果たる多種多様なソーセージは前回のオムレツのように美味しいはずで……お肉よりも何よりもそれが食べたくて仕方ないらしいコン君のギラギラとした視線はソーセージのことを見つめ続ける。


「分かったよ、もうすぐ終わるからね」


 と、だけ返して俺は片付けを手早く終わらせて……と、そこで庭から歓声が聞こえてくる。


「おー! 鹿肉か! 獲りたての鹿肉が食えるたぁなぁ!

 やるじゃねぇかとかてち!」


 それは御衣縫さんの声で、それに返事をするテチさんの声も騒ぎの中から薄っすらと聞こえてきて、それを受けて俺がまさか鹿を狩りに行っていたとは……と、呆然としていると、コン君がぽつりと声をかけてくる。


「にーちゃん……もう一回、ソーセージ作ることになりそうだな」


 その声を受けて俺は「うん……」とだけ返して……今回使わないつもりだったミンサーの用意をし始めるのだった。

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