第89話 あんかけミートボール
「ミートボールを上手に作るコツは、つなぎをしっかり入れることと、具を多くしすぎないことだね」
なんてことを言いながらひき肉や道具の準備をしていると、椅子に腰かけながら足をプラプラとさせたコン君が言葉を返してくる。
「なんで具は多くちゃダメなんだー? たくさんあった方が美味しそうなのに」
「んー、具が多すぎると火を通した時に固まらないっていうか、ボロボロに崩れちゃうんだよね。
味もぼやけてせっかくのお肉が楽しめなくなるし……少なめくらいが丁度良いんだよ。
少なめにする変わりにハッキリと主張してくる具を入れることが多い感じかな、王道の玉ねぎ、チーズ、それとタケノコなんかも良いし、今回みたいに刻んだキノコでも良い。
タケノコは歯ごたえがすっごく良くなるからね……キノコも歯ごたえのあるやつがおすすめかな」
「タケノコ! オレタケノコすきー、タケノコご飯すきー」
「ならタケノコ入りも楽しめるかもねー……ま、それはまた今度にして今日のところは本シメジ入りにしよう」
なんて会話をしながら準備を終わらせたなら、まずパン粉と牛乳を混ぜあわせておく、それから干し本シメジを小さく、歯ごたえを感じられる大きさに切って……必要ないかもだけど、一応念の為フライパンで加熱して、塩を軽く振って味をつけておく。
そうしたならボウルの中にひき肉と牛乳と合わせたパン粉、卵と本シメジを投入し……力は入れずに優しく混ぜ合わせていく。
「にーちゃん、ミートボールをあんかけにするって言ってたけど……あんかけミートボールって美味しいの? オレ食べたことない」
ゆっくりと丁寧に混ぜ合わせているとコン君がそう声をかけてきて……俺は手を動かしながら言葉を返す。
「そうだね、とっても美味しくて大好きな料理の一つだね。
タケノコとか本シメジとか、シイタケとか、和風っぽくなる材料を入れる場合はあんかけにした方が美味しい……と、勝手に思っているかな。
あんかけのあんの味付けに醤油を使うんだけど、和風食材と醤油の相性は抜群だからねぇ……茹でるのも良いけど、やっぱりカリッカリに揚げるのが良いかな。
揚げたてのミートボールにあんをかけ白鬚ネギを振りかけるともう最高なんだよ」
そんな俺の言葉に対するコン君の返事は「ごくり」との喉を鳴らす音だった。
この調子だとすぐにお腹も音を鳴らしてきそうだなと、そんなことを思った俺は……手早く練ったひき肉を手のひらの上で転がして丸めて、ステンレストレーの上に並べていく。
そうやって全部のひき肉を丸め終えたら、手を洗ったりもう使わない道具を一旦端に寄せたりして……揚げ物用の鍋と、あん用の小さな鍋を準備していく。
ミートボールなら茹でても良い、茹でても良いのだけど……あんかけとなるとやっぱり揚げだ。
パスタとかスープに使う場合は茹での方が良いだろうなぁ……それかもうスープそのもので茹でてしまう。
茹では茹でで美味しいしヘルシーでもあるのだけど……今日は美味しさ優先、油をたっぷり使い170度に熱しての揚げミートボールだ。
油を熱する間に、あんもしっかりと作っていく。
と、言ってもあんの方は簡単だ、水、醤油、お出汁、みりん、酒、酢を弱火にかけて、沸騰したら火を止めて片栗粉を投入して、ダマにならないようにしっかりかき混ぜたらそれで完成……簡単な上に美味しいんだから、あんは本当にたまらないよなぁ。
何処か余裕のあるタイミングで白鬚ネギも切っておいて……油が予定の温度に達したらミートボールをおたまですくって、ゆっくりと油の中に沈めていく。
大体3分程揚げたなら、穴付きのお玉ですくい上げて、しっかりと油を切ってからお皿の上に並べていって……並べ終えたならあんをかけて、箸で軽く転がして絡めていく。
あんをしっかり絡めたなら白鬚ネギを振りまき……うん、これで完成だ。
そしてあんかけミートボールが完成すると同時に、テチさんが今日も帰ってきて、コン君のお腹がギュルルルルルと盛大に音を上げて……今日も今日とて、ちゃぶ台を台拭きで拭いて、ご飯やらお味噌汁やらを用意しての昼食タイムとなる。
「いただきます!」
配膳が終わり、席についたならいつものように三人合わせてそう声を上げて……早速あんかけミートボールを口の中に運ぶ。
よく絡んだあんの味がまず真っ先にきて、噛んだなら肉の味と肉汁が口の中に広がって……そして本シメジの旨味がやってきて、くにくにとしたキノコ独特の食感でも楽しませてくれる。
丁度良い味、丁度良い量、丁度良い食感のおかげで、何個食べても飽きなくて、白ごはんが驚く程に進み……これだけで何杯でもご飯を食べることが出来るかもしれない。
白鬚ネギもなんとも良いアクセントになっていて、噛めば噛む程に本当に美味しくて……うん、これはまた作っても良いかもしれないなぁ。
「うんまー! この味ならかーちゃんも作ってくれるかなー!」
そうコン君が声を上げて……テチさんは無言でパクパクと白米とミートボールを口の中に送り込み続ける。
それなりにカロリーの高い一品ではあるので、あんまり食べすぎると太るんじゃないかなぁなんてことも思ったけども……まぁ、食事を楽しんでいる時に、そんな無粋なことを言ってしまうのもマナー違反というものだろう。
テチさんは毎日あの重い棒を振って運動しているし……うん、これくらいのカロリーなら問題ないはずだ。
と、そんな事を考えていると、コン君が、
「にーちゃん! これならソーセージも美味しくなるよ!」
と、声をかけてきて……俺は頷き、口の中のものを飲み下してから言葉を返す。
「そうだねぇ、キノコの旨味が強くて思ったよりも主張してくるけど、最初からそのつもりで味を調整していれば良い感じになってくれそうだね。
ハーブとかには合わないだろうから……キノコだけにするか、醤油や味噌をちょっと入れて和風ソーセージにするか、悩ましいところだね。
チーズ入りとかも作るつもりだし……あえて和風方向に突っ走って差別化するのもあり、かな?」
するともぐもぐもぐもぐと口を動かし、ごくりと飲み下し、口の中を空っぽにしたテチさんも声を上げてくる。
「軟骨なんかも忘れるなよ。
キャベツとか玉ねぎ、タケノコとかも楽しみにしてるんだからな」
その声に俺は「もちろん」と返して頷き……俺が頷いたのを受けて満足そうな顔になったテチさんは、またミートボールを口の中に送り込み、もぐもぐと口を動かしていく。
実のところ、多めに作っておいて、いくらかを残しておいて夕飯に……なんてことも考えていたのだけど、どうやらこの勢いだと夕飯は別に作る必要がありそうだなぁ……。
まぁ、うん、頑張って作ったものを美味しく完食してくれるなら文句は無いし、俺もついつい箸が進むのも確かだしなぁと、そんな事を考えながら俺もまたミートボールのお皿へと箸を伸ばしてミートボールをしっかりと掴み上げる。
そうやってミートボールを完食した俺達は……大きく膨れたお腹をさすりながら、お茶をすすりテレビをぼやっと眺めての、いつもより少し長めのお昼休みへと突入するのだった。
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