徐々に閉じていく光の扉を

軽い朝の光をすくって水に浮かべるみたいに

桜の花びらは白く淡く消えてしまいそうだった

春に消えてしまう無数の命のざわめきは遠く

秋に散る色付いた葉のはらはら揺らす風の声すら

耳を澄ましてみても囁きくらい

爽やかな季節の指先が頬にそっと触れた


空に巻く白く高い雲に地上の事物を託して望む

夢見がちな君が描くことのできる色は鮮やかだった

夜は昼の否定として君の存在や尊厳を踏み躙って扉を閉じる

毎日おなじ道を歩いて帰った放課後の憂鬱に似た

変化のないマンネリに溺れて息もできずに逃げる

明日をどうか違う一日にしてと西の空の赤に祈るのに

空になるのは五時を告げる鐘の音と烏の鳴く声


夕闇に藍がにじんで描いたグラデーション

一日の長さとさらに長い夜の憂さが深みを増して

水底から浮かぶ泡沫のような星の光を映す

波一つ立たない凪いだ湖面の水のような静謐を求めて

彷徨する街は偽りの灯火ばかりで寂しくて

本物の熱を欲して性の欠けた穴を誰かで埋めて呻く

優しさだというには乱暴で粗雑な熱に火傷する

君だけが欠けた世界を憎んでいる


東雲に浮く小さな黒い影が近づいた

君のいない朝にも相変わらず太陽がのぼる残酷さを

僕に教えてくれる群れる鳥たちの声に今日も

諦めとともにカーテンの隙間を閉じて

僕は君を探して

もういちど眠ることにした

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