時のほだしと君のあし

冬が終わり春が訪れ夏が過ぎ去り秋が消える

僕の無知が時間をおざなりにして

燃えるだけの太陽を疎ましく思うのも

君が今ここにいないから

白い肌を刺し貫く光だけが寂しく

寂しくなるばかりの光を僕は

君なしに耐えるつもりはなかった


誰もいない教室

ベランダに出て

冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ

見下ろす通りの少年少女

そこにいない

白い夜が沈んだ山向こうから

君の声が聞こえる気がした


文字も言葉も空虚に紙面をたゆたって

意味のない君と僕のあいだをすりぬけてゆく

空白であるはずの君の席に座る誰かの

名前を僕はまだ覚えていない

フェルマーの余白のような君の一生を

解き明かすための公式を

教科書のなかに探してみてもただ虚しくて

黒板消しですーっと

すーっと

すー


放課後

通学路

寄り道


石を転がし暗渠に落ちた記憶とはじける花びら

淡いあわい色にもっと強く触れて

揺れる君の髪の黒いことを思い出したくて泣いた


放課後

通学路

寄り道


君の白いはだしのあしの

裏は傷ついて血が流れていた

小さなレンズを覗いて見た

緑色の三日月を

空に浮かべて糸を吊るして

たどって空にのぼるみたいに

植物だけを君は愛した


すーっと

すー

すー

すーっと

穏やかな緑色のなかを


ずっと

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