無防備にも剥き出しな心に矢を射る
1
中指より薬指が長い君の手の
鳴らす音は清く
黒く濡れたカラスの羽に映る
虹色のように永遠に近くて
世界を鮮やかに照らしてしまう理不尽を
あの日からもう
味わうことはなくなったという
星への志向性は死への憧れではないはずだと
否応なしに背中を押すような鮮やかな彩りには
命の輝きがあるはずだと
声高に主張する虚しさに似た夜に
踊るように跳ね回る白い指先が
鍵盤を叩くたびに金銀のしずくを散らして
光り輝いていたのに
2
簡潔でわかりやすい言葉の数々を並べ
読む人はよく理解できたと喜んだ
言葉を食べてはすぐに尻の穴から排泄する
人の心と体に痕跡も残さず
通過するだけの言葉を紡いだ詩人や小説家に
生きた意味などなかった
君も同じ
僕の心の芯をぐさりと貫いた
軽い言葉の数々が重力を拒むように
宙にふわりと浮かんで
体重を軽くしていく
君はもう
絵を描くのを
やめてしまったのか
どうして透明に光るのだろうと
石を覗き見ると
鏡のような闇しかなかった
反映された光の
みなもとを辿れば太陽がそこにあり
おのずと光ることのできる誰かは
その人がただ太陽であるだけなのだと
恨んだ羨んだ君は
きっとどこか僕に似ている
君が生きた意味などなかった
君が生きた意味などなかった
水素みたいに軽く浮いて
酸素と結合して高い空で弾け飛ぶのだ
3
黒く濡れたアスファルトは
涙を吸い血を吸い込んで
屋上でかわした他愛ない言葉と
薄いキスの記憶を胸にしまい
しのびこんだ夜のプールは
思ったよりもずっと冷たくて
止まりそうになった心臓の鼓動は
今はひとつ
最後に線香花火を底に沈め
鮮やかな明るい光を夏の奥へと閉じ込めた
無能で力のない僕の秘密は
つまらない物語しか語り得ず
飽和水蒸気量を超え
空気に水滴がぽたぽたと生じる
重力への敗北宣言で
いつしか海へと流れ込む孤独の数々を
まだ言葉にできてはいないのだ
君はまだ見えない
僕はまだ知らない
透明な空を満たす無数の命の意味を
太陽にすかしてみた血管を流れる命の意味を
知らぬままでいつか死ぬことを
受け入れながらまた
僕は呼吸をして
君を
君の死を思った
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