のけもののけもののきもの


動物を知らない

僕は鳴いた

ヤギのように貧相な声は

空を劈き

隙間から涙があふれた

夜になれば

流れ星が空から滴り落ちるから

顔を洗って明日を待つ

そうして君はいつも死を遠ざけて

朝と再生の循環を

感受して生きるのでしょ


愚かな君を

神様

許してよ



傷口からはいつまでも

ケチャップみたいに

命がこぼれていく

塞ぐように

青い衣を纏って

しいと指をくちびるにあて

静かに囁く悲鳴のように


泣いた

ないた

ないた


海みたいに

静かな海みたいに

僕は

君みたいに


泣いた



死んだら星になると

信じてる君は

髪に染み付いた油の匂いと

夏の匂いが混ざるところで

懐かしい花火の光が消えゆく夜に

つぶやく


飽和水蒸気量を超えて

交換され続ける言葉の数々は

常にからっぽだった


太陽の匂いが浮きたって

好きだって言って

宙で花になる瞬間の嘘が

誰かの助けてという言葉をかき消して

美しさで彩ってしまう


それでも君は

つぶやく

青い鳥のように

空に溶けてしまうとしても



死は醜いし僕は醜いし

美しさは疎ましいけど

僕は君を

生きるのです


桃源郷に生きた獣たちは

殺すことを知らない

蛍が

透明な水を求めて飛ぶように

立ちのぼる霧のなかから現れた

虎の群れは

ガラス窓の上を

優雅に歩く


白い夜

暗い雲

同じ色彩で

感情の降り積もった道は

どこかで途切れる

君は

その延長上に

いるのだろうか



日常に埋もれた

可愛いを消費し尽くし

君の好きな猫たちは

そうして

何度も何度も殺された

殺したのは

君ではない君ではないきみ


死んだはずの夜に

花をつんで供え

美しくなんてない

千切れやすい紙のように

艶やかな毛の表面を

優しく撫でた記憶を

そうして僕は閉じ込めた


可憐な振舞いは

愛にも似た

赤い赤い血の残酷さが滲む

過去から現在

さらに未来へと

砕けた炎のかけらで

君と一緒に


きっと

消えてしまう


夢の中だけでしか

もう会えないというのに

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