第44話
昔々の話です。
世の権力者たちが領土を広げるため、大海へと競って船を送りだす時代。
そして、何百、何千もの船乗りが海へと繰り出し、
航海技術が安定しない時代です。運次第で、船はすぐに転覆してしまったのです。
新天地を求めて航海する彼らは、開拓者と呼ばれていました。
開拓者の中には、海の荒くれ――海賊となる者もありました。
そのためか、普通の開拓者たちのことも一緒にして「海賊」と呼ぶこともあったと言います。
或いは、突然上陸して自分たちの領土を増やそうとする開拓者は、現地の人々にとっては、海賊と同義だったのかもしれませんね。
開拓の歴史は征服の歴史とも言われております。
俗に言う海賊時代でした。
今では考えられない時代でございます。
しかし、その時代があったからこそ、今の豊かさがあるのでしょう。それは開拓者たちが築いた成果の一つだと言えます。
さて、ここからが本題です。
海賊時代に名を馳せた伝説の男がおりました。
エドワード・ロジャーズ。
フランセール王国から出航した開拓者たちが海賊団となったのが起源と言われています。エドワード・ロジャーズは海賊として生まれ、海賊として育ちました。
生まれながらの海賊です。
彼の出自が王侯貴族であったなら、偉人になれたのでは――そう、出自を憂う者もあるくらい頭脳明晰で、統率力のある人物でした。
けれども、悪党は悪党。
きっと、性根が腐っているのでしょう。結局は同じ末路を辿ったかもしれません。
冷酷残忍、狡猾で抜け目のない男。
時には紳士に化けて王侯を欺き、時には鮮やかな手法で盗みを働いたと言われています。剣の腕に優れ、たった一人で船を一隻沈めたという逸話もあるほど。
悪逆非道の限りを尽くし、彼が立ち寄った港は火の海になると言われました。
史上最高の大悪党エドワード・ロジャーズ!
エドワード・ロジャーズは海に囲まれた島に拠点を置きました。そこは、もはや彼の王国と言っても過言ではありません。
彼の築いた富は莫大。
国が一つ興せるほどの財産を有しておりました。
その中でも秘宝と呼ばれているのが、「
一方は波打つ海のような蒼を宿した清廉の宝珠。
一方は揺らめく炎のような紅を宿した情熱の宝珠。
これらの宝珠には不思議な力が宿っていると言われていました。
それは不死の力とも、人を操る力とも、時を越える力とも言われ、古来から支配者たちを魅了してきた伝説を持つ宝珠。
不思議に波打つ輝きを持った宝珠を見て、
その美しさから、所有者の魂を食い尽す化け物が宿っているとも言われていました。
時のフランセール国王ジョアン一世はこの宝珠を欲しました。そして、悪逆非道を繰り返す海賊の討伐という名目で、エドワード・ロジャーズの統べる島に大軍を送り込みました。
相手は海賊です。討伐されるのは、むしろ喜ばしいこと。現地で虐げられていた人々も賛同し、協力しました。
けれども、伝説の大海賊は屈しません。どんな艦隊も上陸前に撃破してしまいます。奇襲も全て見破られ、形勢は逆転していきました。
そこで、ジョアン一世は彼の仲間に取引を持ちかけたのです。
「人魚の宝珠はフランセールが貰い受ける。火竜の宝珠は好きにしても良い」
その取引に応じたのは、エドワード・ロジャーズの腹心であり、親友と呼ばれる男でした。
彼はエドワード・ロジャーズを裏切り、宴の席で酒に薬を盛ります。
そして、大勢の海賊の目の前でエドワード・ロジャーズを刺殺しました。
仲間の裏切りによって大海賊エドワード・ロジャーズは命を落としました。エドワード・ロジャーズは、最期まで裏切り者を呪う言葉を吐きながら死んでいったそうです。
当然の報いです。
彼が行った悪事は、その裏切りの比にもならないほど残虐だったのですから。
こうして大海賊は討伐され、
人魚の宝珠を手に入れたフランセールは更なる発展を遂げることとなります。
火竜の宝珠を手にした裏切り者――リチャード・アルヴィオスは、エドワード・ロジャーズが遺した富みを使って王国を建国しました。
これが、アルヴィオス王国――俗に言う、海賊王国誕生の歴史でございます。
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