6.SIDE OTHER
最終話 緑の惑星で
それは、数年ぶりの流星群の夜だった。流れる星の中に、
「あの方角は、
思わず呟きながらも一輪車を走らせた。途中、セーラー服の下に着込んでいた、パーカーのフードが脱げ、
公園の駐輪場に一輪車を停めると、石畳に蹴つまずきながら根元へと向かった。夜の公園はいつもと違って活気づいている。こんな夜は皆、空が良く見渡せるところにいるのだろう、天然樹の下は枝によって空が見えにくいので、そちらの方角は人が
少女は脇目も振らずに、天然樹の根元へ向かって一直線に走って行った。それと言うのも、彼女には生まれながらに不思議な能力があって、何者かが、この世界に来訪したことを察知していたからである。
そういった能力者は、何十年か前までは珍しくなかったそうだ(現に、曾祖母たちもそうだった)。でもある日を境に、皆能力を失ってしまったそうだ。
昔は珍しかった天然樹も、本物の植物が当たり前となると価値が下がるのか、周りがあまり整備されていなかった。ようは樹の根元が草まみれなのだ。
少女が草を掻き分けて進むと、突然真珠質の白い肌が見えた。それは長い女の子の脚で、美しく折り畳まれて、草の中倒れている。
「あ……」
セーラー服の少女は叫びそうになって思わず口に手を当てた。美しい脚の少女の頭(赤髪だ)を膝に乗せて、ボリュームのあるツインテールの少女が佇んでいた。何だか少し宇宙を感じるような、前世代の制服を着ている。
セーラー服の少女よりずっと小さいその子が、「しー……」っとばかりに指を口元に一本持っていく。それに口を抑えたまま頷いて、瞬きした刹那、もうその子の姿は消えてしまっていた。
「ん」
それと入れ替わるように、倒れている少女が意識を取り戻したようだ。目も覚めるような赤い短髪の女の子で、開いた瞳がまた綺麗な緑色をしていた。
「だ、れ?」
「あ……あたし、怪しいものじゃないんです。この近くに住んでてぇ」
「近く?!」
そう言って、長い首を伸ばすと天然樹を見上げた。そこで「てんねんじゅ!」と叫ぶと、こちらにパチリ目線を合わせてくる。セーラー服の少女の同級生たちと違って、肌のキメが細かく、まるで人形のように色白だった。
「い、ろ。白いですねぇ」
「え! そう?! 私他のみんなより色黒な方なんだけど……」
そう言えば、先ほどいたツインテールの少女はもっと色白だったかも知れない。セーラー服の少女は辺りに目を巡らせるが、赤髪の少女一人しか見当たらない。手を差し伸べると、彼女は立ち上がった、背が高く見上げる形になった。
「さっきの子は?」
「さっきの?!」
「小さくて、紅い瞳の。ツインテールの」
「……!」
緑色の瞳が雨に濡れたように色が濃くなって、雫が一粒零れ落ちる。
「ずっと、探していたけれど……」
「?」
「きっとずっと、一緒にいたんだね!」
そう言って微笑まれて、思わずセーラー服の子は言葉を零れさせた。
「瞳の色、綺麗ですね」
「は?!」
「あ! すみません……!!」
「貴女の方がずっと綺麗!」
セーラー服の少女は、水色と灰色が入り交じったような不思議な色合いをしている。赤髪の少女は、彼女の顔を長い指でわしりと掴むと、その目を覗き込む。
「知ってる子たちに、ちょっと似てる!」
「え、そうなんですかぁ?」
曾祖母たち譲りの、瞳の色だった。今彼女たちは遠く、火星に住んでいる。セーラー服の子は、恥じて顔を俯かせる。赤髪の子はそれに微笑んで彼女の両耳を指先でちょいちょいと掴んで笑いかけた。それにセーラーの子はますます顔を染めて、思い切ったように顔を上げて口を開いた。
「な」
「な?!」
「お名前は、何て言うんですかぁ?」
「自分から名乗れば良かった」と顔に出ていたのだろう。赤髪の子は吹き出すように笑って、瞳を閉じ、再び口を開いた。
「私は
<おしまい>
花散らし、乙女 ー The girls are out of bloom on the planet ー 森林公園 @kimizono_moribayashi
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