第9話 密約
「大分時間掛かっちゃったね♪」
「せや、気づかへんかったけど大分前から頭痛してたみたいなんよ……」
「ちゃんとしてくれよな、あの人がお待ちかねだよ♫」
聞き覚えのある声に顔を上げると、校庭には白い仮面のあの二人の少女が立っていた。明るいところで見る彼女たちの髪の毛色は嘘みたいな金色と銀色で。恐らくカツラか何か見た目を変える能力を使っているんじゃないかと感じる。
しかし赤いボディースーツではなくブレザーにスカートという服装だ。見覚えがあるに決まっている。あれはジャパン学園女子部の冬服だ。
「じゃあ連れてくから♪」
白い仮面の金髪の方が、ユリに代わって車椅子の後ろに回る。ユリから離れて行こうとすると、ユリが声を出した。
「あっちょお……」
「何? ♫」
短い銀色髪の方が、車椅子とユリを遮るように立ちはだかった。
「ホンマに大丈夫なんね? ナデシコのことまかしても」
「ああ、最近あなたたちの周りをうろうろしている五人組から守ってやるって♪ 約束したでしょ?」
「何急に確認して、私たちが信じられなくなった? ♫」
白い仮面の二人は首を傾げる。
「私にはあいつらそんな酷い奴らに見えへんから……」
「説明したでしょ? ナデシコの力を使ってなんかしよーとしてんだって、あの五人は。用がなくなったらナデシコがどーなるかわかんないんだよ? ♫」
「一緒にいたとこ見たでしょ? ナコちゃん怪我するとこだったじゃなーい? ♪」
私は唇を噛み締めた。全部ぜんぶ全くの嘘っぱちだ。
「せやけど……」
白い仮面の片方はため息を一つ吐いて、「じゃあ証拠見せてあげようか? ♫」と言って、白い顔が二人揃って同時にこっちに振り返った。
『
もの凄い風が私の隠れている壁の角にぶち当たった。ズグズグと壁は削り取られ、疾風は私の肩をかすめて飛び去ってゆく。風だと思ったのは、例の紅いエネルギーだった。金髪の少女の方が、その能力を使えるようだ。
「う、あ……」
肩が熱い……見つかった! いや正確には……
「ほら、ね♪」
「あなたたちのこと狙ってたのよ、あれ♫」
見つかっていた……。体操着の白を塗らして、したたり落ちる血痕に目眩を覚える。仮面の二人とは別に、強い視線を感じる。顔を再び上げるとユリが私を睨んでいた。あの放課後と同じ眼だ。強い憤り、憎悪………。生まれてから今までで、一番の恐怖を私はその目に感じた。
ヒヤシンス、ひやしんす。裏切ったわけじゃないんだ。
ごめんな。
お前のこと信じ切れなかったわけじゃないんだ。
あーちゃん……。
私はどうしたらいいの?
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