第4話 シティホテル
「ぎゃあ!」
と、叫んだボタンは正直失礼だったと思う。私はというと、父親以外の男性の裸を見たのは初めてなもので……。正直どうしたら良いか分からなくて、ボタンの後ろで顔を背けた。
タケさんは煙草を咥えながら白いタオルを腰に巻いているだけなので、ななな、何かが透けて見える気がするし……?
「おっと、ちょっと待ってな」
タケさんはそう言って白い歯をむき出して笑うと、私たちに無遠慮に近づいて(犯罪だ)、俯く私の頭にポンポンと無造作に手を置く。その時に指輪がカツンと髪の分け目に当たった。左手薬指だ。
つまりまぁ、そういうことだろう。顔がまるで学生みたいに幼く、甘ったるいので失念していた。彼はそれほど若いわけではないようなのだ。……いや別に『がっかりした』とか、そんなんじゃないけれど、そんなんじゃ。
襲撃された
往来から、タケさんの気配を辿ってシティホテルの一室まで、難なくテレポートすることができた。シャワー終わりで半裸だったのは計算外だったけれど……。
タケさんは申しわけ程度に、薄手のTシャツとハーフパンツを履いてベッドに腰をかける。何だこれは、十三歳二人でご奉仕しろってか? そんなのは契約の中に含まれていない。
「それで、どうしたって?」
「能力を使う、白い仮面の少女たちに襲撃されました」
「仮面の少女?」
「はい」
「出たか、いやに早いな」
「はやいって……」
「あー彼女たちは、俺の部下とか警察にも何度か目撃されてんだよ。ところでそれいつ?」
「昨夜……寮へ戻る途中のことです」
「あーちゃんが! あ、その……アサガオが怪我してぇ……」
私を背中に庇ったまま、ボタンが遠慮がちにあーちゃんのことを伝えた。
「うん」
『それで?』と。まるで予定調和のように微笑まれて私は思わず怒りで震えた。
「そ……んな、アサガオが怪我したんですよ? あんな危険な存在を、なんで……」
「『前もって教えてくれなかったんですか?』ってか? 早々に攻撃されて脱落しちまうような存在だったら、はなから手札に必要ないさ」
「だって」
「いやいやナツメ、おまえ、お前さぁ」
「あんな、危ない目に遭うなんて……」
「え? 俺言ったよ? 君たちに。『恐ろしい目に遭うかもしれない、そのための【対価】』だって」
私は押し黙る。そうなのだ、生まれたコロニーから逃れるために、私は彼の条件を呑んだ。
「俺たち『
「……」
「じゃあ、帰るかい? それぞれのコロニーに」
タケさんが上体を倒してニッコリと私たちに微笑む。すると明らかにボタンの体がこわばったのが分かった。
『コロニーM』。あーちゃんの住んでいた『コロニーA』同様、劣悪な環境だと聞いている。私は思わずボタンの丸っこい手のひらに、自分の手の甲をぶつけた。
「わかりました」
私の返答にボタンがハッとしたように横で顔を上げる。
「おうおう、わーかってくれたらそれでいいんだよ俺は。よしよし、次襲撃されても大丈夫なように、放課後真面目に訓練しような」
「はい」
私の返事に押されるように、横でボタンも「はぃ……」っと消え入るように返事した。どこか納得しない気持ちのまま、それでも私たちは従うしかなかったのだ。
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