第516話 これからの話

 その後は計画を煮詰めていくことにする。


「サクラがあいつらに接触するにも、まずは居場所を突き止めなきゃならないし、俺も一緒にここを出る」


 そう言ったヒロフミに視線が集まる。


「確かに、ヒロフミさんのことがバレるリスクはありますが、一番彼らのことを知っているのはヒロフミさんですしね」


 アルはしばらく考えた後に頷いた。その点についてアルが協力したくても、情報が全然ない。精霊たちに協力してもらえば、いくらか手助けはできるだろうが。


「宏兄は危なそうな時はさっさと転移術で逃げてね?」

「それはお前もだよ。クインが守ってくれると言ってるとはいえ、ヤバい時はこれ使え。説得より安全が優先だぞ」


 ヒロフミがサクラにたくさんの呪符を渡す。アルが使ったものと似ている。転移術を使用できるものだろう。


「そうだよ。桜は戦えないんだし」

「……そうね。うん、逃げるの優先にする」


 アカツキにも心配そうに言われ、サクラは呪符を大事そうにポケットに仕舞い、頷いた。


『ならば、吾が世界を巡る足にもなろうか』

「それは助かる。転移術で巡ってたら、見逃しちまいそうだし、あいつらにバレやすくなるから」


 クインの提案にヒロフミが即座に頷いた。

 つまり、クインが聖魔狐の姿でサクラとヒロフミを載せ、世界を駆け巡って悪魔族たちを探すということだ。


「問題なさそうですね。説得の方はどうです?」


 アルが問いかけると、サクラとヒロフミが顔を見合わせる。


「……帰還できるって知れば、興味は引けると思う。後はどれくらい信頼してもらえるか、だな」

「向こう側の重要人物を一人釣ることができたら、簡単になりそうだね」

「ああ。ただ、今でもイービルに洗脳された状態のヤツもいるから……そいつらは俺が洗脳を解いてやればいいな。洗脳が解けさえすれば、すぐにイービルの下を離れて帰還することを選ぶだろ」


 サクラとヒロフミが頷きあった。二人がそう言うならば、なんだか上手く行きそうな気がする。


「問題があったら、すぐに連絡を。僕の手助けが必要な場合も」

「分かった、助かる。とりあえず、本格的にことを起こす前に、精霊んとこに挨拶に行く予定だ。あいつらにもちょっと協力してもらいたいし……アル、手紙を書いてくれないか?」


 じっと見つめられて、アルはすぐに頷いた。それくらいお安い御用だ。

 アルから精霊たちに協力のお願いをすれば、聞き入れてくれる精霊はきっといることだろう。


「……俺は何したらいい?」


 話を聞いていたアカツキがそっと口を挟む。

 アルはヒロフミとサクラと視線を交わした。正直、アカツキに任せることは何もない。


「えーっと……つき兄はここで大人しくしてて」

「えっ」

「それがいい。くれぐれも、余計なことをしようとするなよ」

「……うっそーん」


 役立たず認定されたと思ったのか、アカツキがガックリと肩を落とした。

 アルはその姿を見てフォローを考える。アカツキができることとは何だろうか。


『ふーん、お前はやっぱり使えんヤツだな』

「ブーラーン!」


 馬鹿にするように鼻で笑ったブランに、アカツキが悔しそうに唸った。そのままブランを捕まえようと手を伸ばしたが、ブランはするりと躱す。そして、急に追いかけっこが始まった。


 ブランはアカツキより圧倒的に速く動けるのに、追いかけっこが成立しているのだから、揶揄って遊んでいると考えて間違いない。


 そんな二人の姿を眺めて、アルはうん、と頷く。


「……アカツキさんの役目は、ブランの遊び相手ですね」

「あ、それ、すっごくつき兄に相応しい役目だね」

「ブラン、絶対退屈するだろうからな。アルの検証の邪魔にならねぇよう、それがいい」


 アルの決定に、サクラとヒロフミがすぐに賛成してくれた。

 ブランとアカツキがピタリと止まる。


『我が邪魔者のように言われるのは心外なんだが!?』

「事実でしょ」

「ブランの遊び相手なんて、俺の体力ゼロになるんですけど!?」

「アカツキさんなら大丈夫です」


 一人と一体の抗議を笑顔で退ける。なんだか微妙な顔で見つめ合っているが、それ以上の文句は出てこなかったので問題ないだろう。


「じゃあ、そういうことで」

「決まりね」


 ヒロフミとサクラが微笑み、話し合いを終わらせようとしたところで、アルはふと顔を上げた。


「ジェシカさんはどうします? というか、今どうしてますかね?」


 この場にいない存在について聞くと、二人がうーんと首を傾げた。幼馴染みとして共に過ごしてきた時間が長いだけあって、揃った動きが微笑ましく見える。


「今も温泉施設の方にいるのよ。不満はないみたい」

「けど、そろそろここを出て、自分の国に帰った方がいいんじゃねぇか? 俺らの方針を聞いたら、そうすると思うが」


 元々、ジェシカはヒロフミたち三人が悪魔族を説得する前に帰還してしまうことを危惧していたわけで、その未来がなくなったとなれば、こちらに干渉してくることはないだろう、というのがヒロフミの意見らしい。


 アルもそれを否定するつもりはない。

 というわけで、明日にでもジェシカにアルたちの方針を伝えて、さり気なく異次元回廊から出ていってもらう、という話でまとまった。


 なんとなくヒロフミがジェシカから干渉される可能性を嫌がっている気がしたが、アルもその感覚が分からなくもないので、気づかなかったフリをする。

 ジェシカがあっさりと出ていって、これ以上関わらないでくれたら問題はないはずだから。


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