エピローグ
「あなた、早くしないと遅れるわよ」
「わかってるって。それよりお前こそ弁当は入れたのか?」
大学を無事卒業した私たちは、それぞれのやりたい夢に向かって日々精進している。
彼は半年前にサッカー教室を立ち上げて日々忙しくしている。
私はというと、大学時代にずっとお世話になったお店を先月辞めて、今は彼を支えるために税理士の勉強をがんばっているところ。
そんな私たちも、今日はたまの休日ということで二人でお出かけの準備をしている。行き先は遊園地だ。
結婚してからもう五年が経ったけど、自分で言うのもなんだがラブラブ夫婦なのである。
「晴れてよかったな」
「うん。またしばらくお出かけできなくなるかもだし、今日は楽しみ」
「でも無理はするなよ。絶叫系とかは禁止だからな」
「わかってますー。ああいうところでうろうろするのが楽しいのよ」
お察しかもしれないが、私はこのたび子供を授かった。
そんなこともあり、出店という夢は一旦お預けになったけど、そんなことより彼との子供ができたことで毎日が夢のように楽しい。
少しお腹が大きくなりかけている今の自分を、高校生の時の私が見たらどう思うのだろう。
でも、もし見せられるのならば、こんな幸せが待ってるからくじけないでねと、声をかけてあげたい。
「そういや、お前って遊園地に逃げたよな」
「なんで覚えてんのよ。だってあの時は」
「俺の方だって死にそうなくらい辛かったんだぞ。でも、今となれば笑い話だな」
「そうね。なんであの時ってあんなに必死だったんだろうって、思い返しても不思議だわ」
二年前、私を苦しめた父が他界したと人づてに聞いた。
高校生の頃なら、ざまあみろなんて感情が沸いていたかもしれないけど、私はそれを聞いて複雑な気持ちになった。
あんなに酷いことをされたのに、どうしてそんな気持ちになるのかはわからない。
お姉ちゃんに相談しても、その答えは見つからなかった。
どこにお墓があるのかも知らないので、結局この話はここまで。
だけど、いつか彼の墓前に御線香でもと話したら、遊馬も笑いながら「そうだね」と言ってくれた。
彼のことを苦しめた同級生は来年、障害者スポーツで世界大会に出場するとか。
スポーツに関心のない私ではあるけど、注目されてインタビューを受けるその人の姿は時々テレビで目にする。
まあ、そいつに対しても昔ならイライラしてたんだろうなあ。
今となれば昔の罪を償って今を生きている人を素直に応援したいと、そう思ってはいるけど。
ちなみに遊馬は応援しているようで。
先日ファンレターと称して彼に手紙を送ったら返信が来たと喜んでいた。
普通なら絶対にわかりあえることはない二人だったはずだ。
でも、遊馬が彼を恨まずに負の連鎖を断ち切ったからこその話だと、そう思う。
そんな彼を選んで、そんな彼に選ばれて私は、本当に幸せだ。
「今日はサンドイッチ作ってきたのか?」
「うん。だってあなた好きでしょ、私の作ったやつ」
「お前の作ったものはなんでも好きだよ」
「ふーん。じゃあ、私のことは?」
「……好きだよ、言わせるな恥ずかしいから」
「ふふっ、照れてるあなたも可愛い」
こんなに幸せでも不安はたくさんある。
親の愛情を知らない私が親になるということは、自分の子供にどうやって愛情を分けてあげたらいいか全く知らないということだ。
今はお腹の中にいる赤ちゃんが生まれてきた時、大きくなった時にどうやって接してあげたらいいのか、想像もつかない。
それでも。
「楽しみだけど、緊張するな」
「赤ちゃんのこと?うん、早く顔が見たい」
「二人で頑張っていけばきっと大丈夫。だから無理はしないでくれよ」
「うん。頼りにしてるね、パパ」
きっと大丈夫だと、それだけは確信できる。
「帰ったら名前考えないとな」
「気が早いわよ。まだどっちかもわかんないのに」
「どっちでも可愛いんだろうなあ。俺も頑張らないと」
「ワクワクするね。私も、本当に楽しみ」
だって。
「霞、手を貸して。段差危ないから」
「うん、ありがと」
「じゃあいこっか。しんどくなったらすぐ言えよ」
「わかってる。いつもありがとうね、あなた」
だって、こんなに優しい彼と一緒なんだから!
~fin~
あとがき
ここまで天使様の物語を読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。
二カ月にわたる長期連載、更に少し難しいテーマとして未成年の喫煙等、時代的にどうかなというものを含んだ作品でしたが、終わってみればこれだけ多くの方に応援いただけて大変嬉しく思っております。
多感な時期に誰と出会いどう過ごすかで、人間の価値観はある程度決まっていくものだと感じたりもしますが、やはり最後はその人自身が何とどう向き合うかで決まるものだと、私はそう信じています。
だから天使も工藤も何が正しくて何が間違っているかを、高校生ながらに模索し、より良い答えにたどり着こうと頑張っていた結果、惹かれ合ったとそう思っています。
最後に私事で恐縮ですが、やはりもっと多くの方に作品を呼んでもらえるためにも、書籍化を達成することが小説を書いているうえでの目標であることは変わることはないと思います。
ですので、まだこんな微力な私ではありますがこれからも精進致します。
皆様の応援によっていつも支えていただいておりますので、これからも変わらぬ応援のほどを、是非よろしくお願いいたします。
本当に、ありがとうございました。
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