第97話 父親が誰か分からない人、ミーナ
右にどこまで行けばいいんだ?! 白い壁の店だらけなんだけど! 2階って言ってたけど、2階建てなの?! ビルなの?!
仕方がないから手当り次第に2階にある店の名前を確認しながら歩く。あー、もう! 一気に近付いたと思ってからのこれだからイライラして来る。
周りの店に比べて、一際大きい白い壁の店が現れた。あ! 思い出した! エミリさんって人は天神森の西側の頂点だ。これじゃね?!
階段を上ると、さっきの店員さんのように黒いスーツを着た顔の濃いイケメンが店の前をホウキを使って掃いている。
「すんません!」
「はい?」
「ミーナって人いますか?」
「ああ、ミーナちゃん。え? 君は?」
「入谷 統基って言います」
「入谷? え、もしかして」
あ、そうか! 親父は天神森では有名人のはずだ。ただの高校生が会いたいなんて言ったら怪しまれるけど、親父の名前を出せばスムーズかも!
「入谷 銀二の息子です!」
「へえ、シルバーの?」
「そう! シルバージュニアっす! ミーナって人に会いたいんす!」
まさか自らシルバージュニアを名乗る日が来るとは思ってもみなかったわ。
「呼んで来るから、ちょっと待ってて」
「あんざっす!」
店員さんが店の中へと入って行く。ついにたどり着いた。俺の姉かもしれない人。父親が誰か分からない人……。
店員さんが出て来てドアを開け、店の中の人影に手招きしている。出て来る!
出て来た女の人は、超短いチャイナドレスを着ている。赤いチャイナドレスに金髪のボブヘアで派手だけど、顔が綺麗過ぎて色が派手な程度じゃ顔に負けてる。
叶の大きくて鋭いネコのような目みたいに特徴的なパーツがある訳じゃないのに、バランスがいいんだろうか? さすがはホスト共が天神森イチの美人だって言ってただけのことはある。こんな美人が日本有数の歓楽街にはいるのか……。
俺より背が高くて、細くて長い手足、小さくて綺麗な顔……モデルさんみたいだ。すごい圧力を放っていて、言葉が出ない。
「何あんた。人呼び出しといて無言でジロジロ見るだけとか、なめてんじゃないわよ。私としゃべりたきゃ金持って客で来い」
片手を腰に当て、もう片方の親指と人差し指を輪にして金をアピールしてくる。びっくりするほど綺麗な顔してるくせに、びっくりするほど口と態度が悪い!
あまりの威圧感に帽子とメガネが失礼な気がして、慌てて外した。
「あ、あの、俺、入谷 統基って言います。入谷 銀二の息子です」
「なんだ、ガキじゃん。入谷? あー、入谷。何の用?」
「あ、あの、親父の娘かもしれないんですよね?」
ミーナさんは綺麗な顔を思いっきりしかめる。
「私は入谷とは無関係よ。知ったこっちゃないわ」
「え、そんな感じなの?! 父親かもしんねーのに無関心過ぎね?」
「父親なんか誰でもいーわよ」
「マジか!」
「何あんた、そんな話するためにわざわざ来たの?」
「え、そうだけど」
「客にもなれないガキに用はない。帰れ帰れー」
だるそうに片手を腰に当て、片手でシッシッと俺を追い払うような仕草をする。
「ちょ! 自分の方がよっぽどガキっぽいだろ!」
「はあ? 明らかに年下のくせに生意気な。入谷と付く奴にはロクな奴がいないわね。私、入谷関係と関わる気なんてないから。ホスト共みたいに金になるならまだしもガキなんかまっぴら。めんどくさい奴のために呼び出してんじゃないわよ」
店員さんに文句を言って、さっさとドアの向こうへと消えて行ってしまった。
何、あの人! 人の話まるで聞く気ねえ! 超自己中じゃねーか!
「せっかく来たのに悪いね。ミーナちゃんさっきちょっとモメてたから今機嫌悪いんだよ。機嫌のいい時ならまだ話聞いてくれる可能性はわずかにあるから、どうしてもって言うなら出直すといいよ」
「機嫌良くてもわずかに可能性がある程度なのかよ!」
「基本、人の話なんか聞く気ない子だから」
「そんな奴は水商売辞めてしまえ!」
「あ、そんな大声でそんなこと言ったら――」
店員さんが開けていたドアからガラスのコップが俺の頭目がけて飛んできた。
「うわ!」
自慢の瞬発力で間一髪避けたけど、あっぶねー! ガシャーンと派手な音を立ててコップが粉々に砕け散った。
「あーあ、ミーナちゃんに聞こえちゃったんだよ。あの子地獄耳だから」
と店員さんがまたホウキを手に取ってガラスを集め始めた。
「店ん中から投げたの?! すげーコントロールだな!」
何時間も天神森を歩き回ってこれか! とんだ時間のムダだったわ! あんな奴が姉であってたまるか! こっちから願い下げだ!
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