第56話 誕生日デート 2/2

 翌日曜日は比嘉とデートだ。やっぱりどうしてもプレゼントをしたい、と言う比嘉と電車に乗り繁華街まで繰り出してショッピングだ。


 見る人によっては、もしかすると一見比嘉と天音さん、二股かけているように見えるかもしれない。さすがに2日連続誕生日を祝ってもらってお出かけとなると、俺もいよいよ俺のやってることって大丈夫? と思えてきた。


 いや、大丈夫なはず。俺は初めっからちゃんと天音さんに好きな子がいるって誠実に伝えてる上でこうなってるだけで、いつだって一途に比嘉だけが好きなんだから。純愛だから。


「あー、入谷が好きだって言ってたアーティスト、まだアルバム1枚しか出してないみたいね。他にCDとかDVDとか欲しいアーティストいないの?」


「俺、ハマるとずっとリピートするタイプだから他のアーティストに興味持てないんだよ」


「そうなんだ?」


「女も同じだよ。俺、比嘉以外の女に興味持てないの。俺比嘉にドハマりしてるから」


 比嘉が真っ赤になる。もー、ほんと何言っても照れるな、コイツ。かっわいい。だんだん照れさせるのが楽しくなってきた。


「あ、服は? 新作だって!」


「服なー」


 正直、服に興味はない。いつでもドンキスタイルな慶斗程どう見えてもいい訳でもないが、どうしても丈が長かったり服に着られてる感が出てしまうこの身長この細い体で服と向き合うのがちょっと苦痛。マネキンが着てるようなバランスにならねえんだもん。メンズファッション誌なんか絶対読まねえ。モデルがデカすぎるのが目に見えてる。


 ぽっちゃり女子向けのファッション誌作るんなら身長170未満男子向けの雑誌も作れよって言いたくなる。出たら金に余裕あれば買うから。身長を伸ばす方法特集なんかあったら絶対買うから。


「悪いけど俺、マジでプレゼントして欲しいもんないかも。俺比嘉しか欲しくないんだもん」


 そう言われても……って困ってるけど、表現が遠回し過ぎるんだろうか。誕プレにやらせろよ、って言えば伝わるだろうか。……伝わらなかった場合、小学生に噛み砕いて説明するとなると地獄なんだけど。


「お前が俺のことを好きでいてくれるのが1番のプレゼントなんだよ。俺のこと好き?」


 軽く聞いただけなのに、また比嘉は真っ赤になってしまう。


「好き……」


 絞り出すような声で言う。俺の誕生日デートじゃなきゃ言えなかったんだろうな。ちっせー声ながら、がんばってくれて嬉しい。こんな人の多い所で聞き取れた俺の耳もエライ。


「ありがとう」


 と笑ったら、比嘉も笑った。あー、俺やっぱり親父なのかもしんない。このままの比嘉を愛でたい。純粋無垢な小学生のままでいい。変に大人にならないで。幸い、俺には大人の女でいてくれる人がいる。


 これは住み分けだ。比嘉は、あっちの世界に住むべき人だ。決して、こっちの世界に来てはいけない。そして俺はあっちの世界とこっちの世界を行き来するソルジャーさ。ソルジャーって何だっけ。


 結局、何も買ってもらわなかった。手を繋いで適当な店に入ったり、マックで飯食ったり、動物好きな比嘉が喜ぶかなと思ってペットショップに入ったり。俺やっぱりプレゼントなんかいらねーわ。比嘉とこうして歩いてるだけで十分。


「結構歩いたけど、疲れてない?」


「疲れてたけど吹っ飛んだ! あの子猫超かわいかったー!」


「疲れたら言えよー。比嘉体力なさ過ぎだから言われないと分かんねーよ」


 満面の笑顔だ。ペットショップにいたスコティッシュフォールドの子猫を比嘉はいたくお気に入りで、飼う予定もないのに抱っこさせてもらった。店員さんにまだお店に入ったばかりで人に慣れさせたいから遠慮なくどうぞーって言われて、俺も抱っこさせてもらった。めちゃくちゃ軽くてめちゃくちゃフワフワで驚いた。


「めっちゃあの子猫かわいかったよなあ。比嘉んちペットいないじゃん。そんなに動物好きなのに飼わないの?」


「ママがひどいアレルギーなの。だから、一人暮らししたら飼いたい! でも、犬も猫も好きだから迷っちゃって」


 あれ? ママ? 比嘉今まで、お母さんって呼んでなかったっけ? 本当は家ではママって呼んでるのか。お母さん呼びはお外用か。なんか、俺に対して素を見せてくれたように感じて嬉しい。


「へー、そうなんだ。比嘉が一人暮らし始めたら俺毎日泊まりに行くよ」


「毎日ってそれもう、一人暮らしじゃなくない?」


 泊まりか……あー、いいなあ。朝起きたら比嘉がいるんだ。最っ高の目覚めじゃねーか。いい! お泊まりしたい!


「比嘉! お泊まりしよーよー」


「お泊まり?! 無理だよ、そんな急に!」


 そんな声ひっくり返るくらい驚かなくてもいいじゃん。付き合ってんだからさー。


「比嘉の親過保護だもんな、急には無理か。じゃあ、比嘉の誕生日の時! 今年は比嘉の誕生日祝えなかったからさ、2年分で小旅行をしよう! 決定! 俺バイト代貯めて、小旅行プレゼントする! 行きたい所考えてよ、近場で」


「え……旅行なんてお金かかるのにプレゼントにもらえないよ! ……ねえ! 聞いてる?! 入谷!」


 比嘉は誕生日が早い上に言ってくれなかったから、何のお祝いもできていない。俺はずっとそれが気になっていた。どかんと盛大に祝ってやるぜ、比嘉!


 ちょっと先になるけど、比嘉とのお泊まりのためだと思えばバイトも頑張れるってもんだ!


 今までは、一緒にいた時間って最高でも……10時間くらいかな。お泊まりしたら、一気に記録更新だ! 楽しみすぎる!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る