第47話 チャラい母親と息子、10年越しの和解
「で、結局これ何の集まりなの?」
俺の部屋のベッドに悠真と並んで座る花恋ママが言う。特に何ってこともねーよ。廉がいないから俺に構ってるだけだろ、コイツら。
「あー、統基が悩んでんの。愛する女には親父目線で手を出せない! 手ぇ出し放題の女は愛せないから後ろめたい!」
「マジで調子乗んなよ、孝寿!」
「後ろめたい?」
この人、今の俺の母親なんだけど?! 何言ってくれてんだ、マジで!
「私だったら、後ろめたいとか情けをかけられる方が嫌。その女に、可愛がられたいなら可愛がられるための方法を探せばいいじゃないって言いたくなるわ。自分に利のある恩を売ればいいのよ」
母さんが俺の顔を見ながら言う。……なんか、好戦的だなあ……。
「……親父のこと、言ってんの?」
「そうよ。銀士はあなたを取り戻せた。私は廉を。しかも、銀士は私が銀士と夫婦でいる限り私に一生頭が上がらないでしょうね。年齢関係なく。忘れ形見のあなたが大事だから」
何言ってんのかよく分からんがトゲのある言い方だ。俺に対して、敵意とまでは言わないけど快く思ってないのはもうずうっと感じていた。
でも、実の子じゃないんだから仕方のないことだととっくに諦めていた。母さんも言ってた通り、産んでもない子供なのに面倒見てくれたんだから十分だ。
親父は……大きな後悔を経て、母さんと出会ってすぐに入籍した。俺の生みの母親が亡くなってしまっていたから。
「そっか」
と、孝寿がわざとらしく手をポンと鳴らした。
「お姉さん、寂しいんだ。それもそうか。パパが統基のためにダーダー泣いてたのが出会いなんだもんね。金のためだなんて言って、パパのこと愛してるんだ。でも、お姉さんには統基も亡くなった統基の母親も越えられないね」
無邪気な笑顔でキツいことを言うんじゃない。母さんが能面のように無表情になってしまった。
「いや、統基はすでに越えてねえ?」
「うん、オーナー、花恋花恋言ってんじゃん、いっつも」
「それもそうだな。俺親父の顔なんかだいぶ見てねえけど電話ひとつ寄越さねーよ。母さん、俺よりよっぽど親父に愛されてるよ」
って実の息子の俺が言うのも悲しい話なんだけど。
「息子達はこう言ってるけど? 俺もお姉さん好きだよ」
「何が俺もなんだ! 唐突に口説いてんじゃねーよ、孝寿! 俺も俺も!」
「ユウはガチに聞こえるからやめとけ!」
「俺もガチだよ? 花恋」
「孝寿、今日絶好調だな」
「最近子供の生活リズムが安定してきてさー、毎晩ぐっすり眠れるわ、奥さんもやっと俺の相手してくれるわ、子供超かわいいわで絶好調だよね。聞いて花恋、俺さー昨夜半年以上ぶりに奥さん脱がせるのに成功してさー」
「何を聞かせてんだよ!」
孝寿は寝不足くらいの方がいいな、これ!
「あはは!」
今まで見たことないくらい、屈託なく母さんが笑った。えっ、母さんも声出して笑ったりするんだ?
「奥さん、体型戻ってた?」
「だいたい戻ってた! 頑張って体操とかヨガとかやってたからね。ただ母乳だからさー、胸がねえ」
「しょうがないわよ、母乳なら。体型崩れるのが嫌でミルクにする人もいるけど、私は自分の体型を優先したいような人に子供が育てられるのかしらと思うわ」
「へー、そんなチャラい見た目してるけどちゃんと子育てしてるんだ」
「もう子育て卒業してるけどね。小学生にもなったら1人ででも生きていけるでしょ。あなたこそ、その見た目で子供いるのね」
え、卒業するの、早くない? 廉、小5だぞ? まだまだ子育て真っ只中じゃね?
「いいでしょ、若いパパ」
孝寿が母さんに笑いかけると、母さんは兄貴達を見回した。
「銀士もだけど、あなた達全員若いパパでしょ。きっと繁殖力が強いのね」
心なしか、呆れてるようにも聞こえる。うん、分からんでもない。
「統基も彼女できたんなら、高校生の間くらいは子供できないように気を付けろよ。統基が望むなら何も言わんが」
「あのな、亮河兄ちゃん。手も出してないのに子供できたらそれもう俺の子供じゃねーだろ。気を付けようがねえわ」
「好きな子には無闇に手出しできないってやつー? こんなチャラくさい顔してるのにかわいい〜」
お? なんか、母さんの言い方にトゲが無くなった気がする。言う内容はひどくなってるけど。
「やっと付き合えたのに、体目当てかとか思われたら終わりそうな子なんだよ。まあー自信過剰なくせに純情可憐なの。小学生と付き合ってるみたいなの。俺どうしたらいいと思う?」
俺も打ち解けようと、お悩み相談を投げてみる。
「高校生でしょ、ほっといてもそのうち興味持つわよ。そのタイミングを逃さなければいいんじゃない。そもそも、純情可憐なフリしてるだけかもしれないし」
「いや、これがマジなんだよ。小3からタイムスリップしてきてるもんだから」
「あなたタイムトラベラーと付き合ってるの?」
「そうそう」
「てっきとーなこと言うわねー。やっぱりチャラくさい」
俺、母さんとこんなにしゃべったのも、俺に笑ってくれたのも初めてかもしれない。10年以上もこの家で暮らしてきて、初めて母さんの笑顔を見た気がする。改めて、感謝の気持ちが湧き上がる。ありがとう、母さん。
「あれ? ただいまー! あれ?!」
下から廉の声がする。帰って来たみたいだな。
「あー、廉もそのうち彼女とか連れてくるのかしら。どんな女だろーと追い出してやる!」
と、母さんが部屋を出て行った。階段を降りる音が聞こえる。
「……お前ら、ありがとうな」
照れくさいから、兄貴達に背中を向けたまま言った。ドアの近くに立つ俺の肩をポンと叩いて、兄貴達が部屋を出て行く。
「10年も、よく頑張ったな、統基」
「え?」
俺、特に何も頑張ってねーよ? 亮河兄ちゃん……出てっちゃったけど。
「廉がいい子に育ってるのも、統基の背中見てるからだよ」
「え?」
俺、廉にも特に何もしてないよ? 慶斗兄ちゃん……行っちゃったけど。
「あんなセクシーな母親とひとつ屋根の下なんて、大変だな、統基」
「お前だけなんか違うぞ、悠真兄ちゃん」
そしてホスト三兄弟は廉が帰って来たらすぐさま出てったな。やっぱり俺は繋ぎかよ。ったく。
「あはは! たしかに! 年上の女と切れてたら花恋がそのポジションに来てたかもよー。自ら弟か妹作るとか、斬新ー」
孝寿が笑い転げている。……孝寿には改めてお礼言いたかったんだけど、そんな気も失せたわ!
「作んねーよ! とんでもねーことをサラッと言い過ぎなんだよ!」
「だって俺ご機嫌なんだもんー。半年ぶりだぞ、半年! いや、半年どころじゃねーわ、8か月くらいかな? 産前産後とは言え、長かったー。そんなに久々だとさ、夫婦でもちょっと緊張するもんなんだな。初めての時を思い出したよ。なあ?」
「俺が知るか! 同意を求めるな!」
言ってることはめちゃくちゃだし俺にする話じゃねーけど、すっげー嬉しそうだな、孝寿……。コイツ、めちゃくちゃ奥さんのこと好きなんだな。もしかしたら奥さんと2人きりだと赤ちゃん言葉だったりするんかね。
「孝寿兄ちゃん、かわいく僕もう眠たいでちゅーって言ってみてよ」
何言ってんだよってキレられるかな。キャラではないもんな。
「いーよ」
いいんかい。あっさりOKしたもんだな。……なんだ? 孝寿が俺に背を向けて、いつも後ろに流してる前髪を下ろしてるみたいだ。
振り向くと上目遣いで
「統基、僕もう眠たいでちゅ……」
と、孝寿の声で超好みにドンピシャなめちゃくちゃかわいい女の子が言った。ドキーンだわ! え、何?! 美少女ボクっ娘の赤ちゃん言葉とか破壊力半端ない!
「え?! え、孝寿?!」
孝寿がいつものように前髪を後ろに流して真顔になった。やっぱり孝寿だ!
「バーカ。俺をからかって遊ぼうなんて100年早い。どーだ、かわいかっただろ?」
「あれは反則だろ! 完全に女の子じゃねーか! 何あれ?! 今女の子がいたんだけど?!」
「俺、前髪下ろすと完全なる女顔なんだよ。これでも10代の頃に比べたらかなり男っぽくなったんだけど、今は統基に喜んで欲しくて女っぽさ全開にしたからな。かわいかったよ、統基のトキメいてる顔」
孝寿がイタズラ成功した悪ガキみたいな笑顔で俺を見た。
「あっはっはっは」
と、わざとらしく大声で笑いながら部屋を出て行く……あ……遊ばれた―――くそー悔しいー、この俺がオモチャにされるとは……。
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