第36話 夏休みの宿題
比嘉がストーカーしている8年を取り戻す……まさに四六時中考え続けても、どうしたらいいのか分からない。ドラえもんを探すか、自分でタイムマシーン作るか、時を止めて8年待つか……何のファンタジーだ!
よし、比嘉との濃い時間を作ろう。それこそ、8年分くらいの。それなら、俺にも何かできるんじゃないだろーか。
よし、夏休みが終わってしまう前に、比嘉と―――
スマホを手にすると、ペコンと通知が来た。一瞬比嘉から送られてきた対象の画像が頭に蘇って、思わずスマホをベッドへ放り投げてしまった。
あ! 俺、何してんだよ! あー、投げつけたのがベッドでまだ良かった!
通知を確認すると、充里だ。
なんだよ、充里かよ。ビビらせんじゃねーよ、充里。
「宿題終わってる?」
……宿題?
あ! 終わってねえ! ってか、1ミリもやってねえ!
……だって俺、ずっとへこんでたんだもん。宿題なんか、丸っきり忘れてたんだもん。やっと、やっぱり比嘉を諦めたくないって、覚悟できたとこなんだもん。俺、目標見失ってたんだもん。
……だもんじゃねえ! だから誰がどこのやんちゃ坊主なんだよ!
「何もやってない! 超ヤバい! 助けて充里エモン!」
「逆だよ、統基、充里えもんだよ」
……どうでもいいんだよ、充里えもん! 逆って何だ、カタカナの逆がひらがななのか。違うぞ、充里えもん! 曽羽の天然うつってんじゃねーよ!
「曽羽ちゃんが宿題終わったらしいからさ、写し会しよーぜ」
なんってありがたい企画なんだ! 曽羽なんて天然すっかりこの夏休み中に気に留めたことなかったけど、曽羽なら宿題ちゃんとやるって信じてたぞ!
で、集まったのがもちろん教祖・曽羽と、筆頭信者充里、自力で宿題終わる訳ねえ比嘉、俺、比嘉の隣の席の那波、優夏、真鍋、結愛だ。
学校のわりと近くのデカいカフェのデカい丸テーブルに円になって8人が座る。今日も暑いから、みんな冷たい飲み物を頼んだ。
「これ1日で写すの無理だわ! 俺何もやってねんだもん!」
積まれた曽羽がやった宿題を見て、即全部を写すのは諦めた。一通り半分くらい埋めときゃいいか。全部は分かんなーいって感じで。
「私は全教科ひとつは答え書いてるから、まだ大丈夫」
「……比嘉、この場合は1と0はほぼ変わらんぞ」
違う時もあるんだけどな。ただ、今は変わらん。
とにかく、各教科写し終わったら次の人に回す、みたいな感じで曽羽の宿題が巡る。
……ん?
曽羽の宿題に、
「そわさん、ありがちゅ♡」
と小さく書かれてる。誰が書いたんだろ?
比嘉がこんなかわいいことする訳ないから、那波か優夏か結愛だな。かわいー、女子っぽい。俺、女子じゃねーけど、♡を書き加えておく。ありがちゅ、曽羽。
集まって1時間くらい経って、みんなで適当にしゃべりながら宿題を写す中、トイレに行きたくなった。この店冷房が効いてて、寒くなってきた。
トイレに行って席に戻る時、ふと好きなんだからそりゃ視界に入るよねーな比嘉が視界に入った。
……何あの顔色。マラソン大会の時みたいな土気色。
あ! また腹冷えてんのか! あんなほっそい肩紐のキャミソールなんか着てるから! あんな肌着みたいなキャミソール1枚でこの冷房にさらされてるせいで腹が痛いんだ。もう、お前腹弱いんだから予防線張って来いよ! 腹にカイロでも仕込んどけ!
仕方ない。タンクトップの上に着てた半袖のパーカーのチャックを下ろす。
「俺暑いから、お前これ着とけ。俺に抱かれてる感じがするだろ」
なんか知らんが女子がキャー! とか言う。キャーじゃねえ。コイツは腹が痛いだけだ。
「そんなノーマッチョの体でタンクトップ姿になっても何もカッコよくないわよ」
「いいから、早く着てチャック閉めろ。腹温まるから。どんどんその服の温度下がるぞ」
「……え?」
もー、これだから馬鹿は話が進まない! 土気色のくせに! 素直に俺の言うこと聞いてればいいんだよ!
パーカーを強引にでも比嘉に着させてチャックを閉め、正面からハグする。比嘉の足が邪魔で腹は温められないけど、冷房からの壁にはなる。
……俺の体も冷えてそうだし今まさに冷房直撃で寒いんだけど、比嘉の肩の方が冷たい。人肌って言うくらいだから多分比嘉の体温められてるよなあ?
多少、比嘉の顔に赤みが戻った気がする。
「俺の座ってたとこのがここよりはマシだわ。あっちの席行け」
と、比嘉の宿題セットと俺のを入れ替えて席を立たせて、座る。あー、比嘉の温もり……。
「統基、理性を持てー。こんなとこで本能全開してんじゃねーよ」
笑いながら充里が言った。
「は?」
「急にハグするから、びっくりした!」
優夏が両手を口に当てて驚いてるみたいだ。ハグ? ああ、ハグはしたけど、壁になっただけだ。おかげで、めっちゃ肩が冷えた。
「腹……肌。この店寒くない? 人肌恋しくなっちゃって。優夏、シャーペン放り投げてんじゃん。早く写してよー、俺化学まだなんだから」
「あ、ごめん。だって入谷がー」
まだ言ってる。いいから、早く写せ。
なんかもう、比嘉は腹弱いんだってみんなにも知ってもらった方が比嘉も楽なんじゃないかと思うんだけど、土気色でもまだ我慢するくらいだから知られたくないのかもしれない。
全く、自分の腹にまで自信過剰なんだよ。いつか漏らすぞ。
この後どうすっかな。もうすぐ夏休みが終わる。夏休みの大半をへこみ続けて無駄にしちゃったなー……。今日はバイトもないし、何か、ひと夏の俺との思い出を比嘉に印象付けたい。
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