第21話 お酒はハタチを過ぎてから
比嘉の笑顔を胸に、爽やかで清々しい気分のままひろしに向かう。
あ、バイト急募のポスターがなくなってる。俺が入ったからか。ひろしの引き戸をガラガラーと開ける。
「おはようございます!」
「おはよう、入谷くん。元気いいね! 上に上がってて」
「はい!」
階段を上る。今日は事務所のドアが閉まっている。ドアを開けて中に入る。
「あ! 入谷くん?」
「あ、はい! おはようございます!」
「おはようございます」
橋本さん、工藤さんの他に、知らない小柄でメガネを掛けた男の人とショートカットの小柄な女の人もいた。
「ノート見たよ! 高1には見えないねー」
「あ、そっすか?」
橋本さんにも大人っぽいって言われたな。俺、年より老けて見えんのかな。
「入谷 統基です。よろしくお願いします」
知らない人達に軽く頭を下げる。
「
地味な顔して芸能人みたいな名前だな、このメガネ。バイトの男3人中2人メガネか。店長もメガネだし、俺が入るまで男のメガネ率100%じゃねーか。
よろしくお願いします、とお互いお辞儀をする。
「私、
「よろしくお願いします」
この人もよく笑う人だな。さっきからずっと笑ってる。小さいし中学生くらいに見えるな。
はい、座って、と椅子を引かれ、みんなで大きいテーブルを囲んで座る。
「これメニュー。何がいい?」
ひろしのメニューを渡された。あ、歓迎会ってここでか。そっか、店あるもんな。土曜だから忙しいだろうし。そういや、知らないバイトさんが下にいたような気もする。
「オレンジジュースと、唐揚げとー」
「あ、未成年か、高校生だもんね」
「未成年なの、俺だけっすか?」
「めぐちゃんもまだ19歳だよね」
「うん。まあ飲むけどね」
「お酒強いもんねー、めぐちゃん」
飲むんかい。1番年近い人で19か……やっぱり大人の世界だな。
バイトの中では社会人ながら副業でバイトしてる時東さんが一番年上で24歳だそうだ。でも、小柄なのもあるのかいじられキャラみたいだな。
時東さんの次に22歳の大学院生の橋本さん。就活しながらバイトを続けているらしい。
で、21歳の大学生の工藤さん。客前以外では寡黙な人って印象だったんだけど、単なる人見知りみたいだな。昨日初対面の俺にはまだ寡黙だけど、慣れたみんなとならよくしゃべる。
で、専門学校生の有田さんが19歳。
みんな1年以上前から働いてるらしく、和気あいあいとしていて仲良いみたいだ。俺も馴染めっかなあ。みんなウェルカムな雰囲気ではある。
店長と知らない人がドリンクをトレーに載せて上がって来た。
「入谷くんの歓迎会を始めまーす。
日野くんと呼ばれた人が俺を見る。この店は、ある程度顔で採用してるんだろうか。この人もイケメンだな。時東さん工藤さんは黒髪だけど、日野さんは茶髪でちょいチャラそう。メガネしてない男もいたんだ。
「入谷 統基です。よろしくお願いします」
軽く頭を下げる。
「日野
「入谷くんは高校生なんで、オープンから10時まで入ってもらいます。平日にオープンから入れるのは貴重な人材なんだ。助かるよ、よろしくね、入谷くん」
店長が笑いかけてくる。貴重な人材とか言われると、すげー嬉しいな。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「入谷くんはバイト初めてらしいから、みんな色々教えてあげてね」
はーい、とみんな口々に言ってくれる。ほんと、みんな優しそうだな。
店長と日野さんは乾杯だけして、店に戻って行った。土曜日の忙しい中俺のために、店長いい人だな。
「唐揚げおかわり来たよー」
と、時東さんが唐揚げの大皿を運んで来てくれた。
「入谷くん、唐揚げ大好きなんだねー」
「さっきボーッとしてたらなくなっちゃったから。1個じゃ物足りないんすよね」
「レモチュー誰?」
「天音ちゃんー。私ゆず!」
「俺ビールもう1杯ねー」
「はーい」
年長者の時東さんが階段を上ったり下りたり働いている。店も手伝ってるみたいで、ほとんど酒飲んでないし食べてない。
「めぐ、明日バイトだっけ?」
「忘れたのー? 明日は付き合って半年記念日だよー。揃って休み希望出してるでしょー」
俺以外はすっかりほろ酔いだな。俺の隣に座る有田さんの反対隣、時東さんが座ってた椅子に工藤さんが来た。
「え、2人付き合ってんすか?」
「うん!」
「へー、橋本さんと時東さんも付き合ってんすか?」
「付き合ってないよ!」
嫌そうに言ってやるなよ。時東さん、頼りなさそうではあるけど、めっちゃ働くし優しそうないい人じゃん。
「入谷くん、彼女いるの?」
と橋本さんが聞いてくる。お、今日それ聞く?
「いないっすねー」
と言いながら、声は明るくなる。今日、告白はしたんすよねーってな。わざわざ言わんけど。
「へー。モテるでしょ、絶対!」
「まあー、それなりっすかねー」
「否定しないなー」
工藤さんが笑う。俺も笑う。見りゃ分かることなんだから素直に認めて笑った方が角が立たないことを俺は知っている。
「入谷くんがモテないとか言ったら逆に嫌味よね」
「モテてきた感がするよね、なんか」
「分かりますー?」
「ほんと否定しないねえ、入谷くん」
お、工藤さんだいぶ打ち解けてくれた感じかも。俺にもニコニコ笑ってくれるようになった。
「入谷くんもちょっとだけお酒飲んでみなよ。チューハイはジュースみたいで飲みやすいよ」
と、橋本さんが自分のレモンチューハイを俺に差し出してくる。
酒か……飲んだことねえけど、居酒屋で働くんだし、飲んでみてもいいのかな?
「いいんすか? ちょっともらっても」
「いいよー」
「いただきまーす」
ひと口、飲んでみる。これ、酒なの? 炭酸が強くてよく味分かんねーけど、普通にレモン味だな。普通に飲める。
「普通に飲めますね」
「ビールは?」
と、工藤さんが自分のビールを俺の前に持って来る。チューハイは美味しく飲めたからビールもいけるだろ、と残り少ないし注文してあるし全部飲んでやろうとコーラみたいにガブガブ飲んでみる。
「うわ! 苦! まず!こんなん美味いんすか、工藤さん!」
「あー、たしかに! 初めてビール飲んだ時は俺も何が美味いのか分かんなかったなー」
「レモチュー飲めるんなら、カルピスとか普通に飲めるんじゃない?」
と、ビールを持って来た時東さんにカルピスチューハイ! と橋本さんが注文する。
え、俺が飲むの? そのカルピスチューハイ。
時東さんがカルピスチューハイを持って来てくれる。飲んでみると、美味い。これはもうカルピスだわ。やっぱり普通に飲める。
「美味いよ、これ」
「へー、飲めるんだね、入谷くん」
まあ俺、母親似なのかあんま親父に似てないけど、言ってもカリスマホストの息子だしねー。
チューハイいっぱい種類あるのを、制覇しようーって橋本さんと片っ端から注文して飲んだ。
「入谷くん、酒つえーな!」
「あざっす! 俺、工藤さんくらい飲める男になりてーなあ」
「やめときなよー、健一は飲み過ぎだよ。水みたいにビール飲んじゃうからー」
体がフワッフワする。酒、いいなー。超楽しい。
橋本さんが椅子を俺の椅子の真横に持って来て座った。
「ねえ、それだけ飲めるんなら、日本酒飲んでみない? 私も飲んだことないの。一緒に飲もうよ」
日本酒? ああ、兄貴達が来た時に飲んでたやつか。あいつらで飲めるもんだし、別に俺何でも飲めそう。
「いいよ」
「じゃあ、1番甘口のやつね」
「うん。何でもいいよ」
しばらくすると、
「橋本さん、日本酒ー」
と、店長がデカい瓶を持って上がって来た。テレビで見た木の四角い節分の豆まきに使うような入れ物の中にグラスを入れて、グラスから酒を溢れさせて木の箱になみなみと注ぐ。
めっちゃ溢れてるよ、店長。酔ってんの?
フワフワした頭で、店長かわいいなーなんて思っていた。
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