第103話 秘密基地 〜 子供の頃って、何で基地を作りたくなるのかな 〜
「こ…これは…。いや、この広さは……ゴクリ…」
そこには、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くすクリントンの姿。
時間的には、クリントンの兄セオドアに対し、クラス別対抗戦での雌雄の決着を宣言した翌々日の夕食後になる。
俺はとある場所にクリントンを連れてきていた。
しかし、実はクリントンだけではないのだ。
「はははっ!さすがだぜレイン!一緒に訓練してみないか?と誘われて来てはみたものの、こんなでかい訓練施設を用意してくれていたとはな!もう驚きを通り越して、むしろ楽しいぜ!わっはっはっはっ!」
そう言ってカラカラと笑う、金髪イケメンの大男。
王国四貴族とも称される、由緒正しきキングスソード公爵家の嫡男でありながら、ある意味誰よりも貴族らしくない男、エドガー・キングスソード。
「ふっ…、歩く非常識、ここに極まれりか。ここをわずか一日二日足らずで造ったと聞いた時は、にわかには信じられなかったが、まあいいさ。強くなれる機会をみすみす逃す俺でもないしね。誘ってくれて感謝するよ、レイン」
いやん!
失礼を失礼と感じさせないこの爽やかイケメンめ!
最後はきっちりと折り目正しく、お礼の言葉を述べてくれるのは、クロウ・カートライト。
…えっと、恐ろしい従者のルナ…なんとかさんは、今はいないっと…。
実は俺、クリントンと訓練を始めるに際し、せっかくならばと魔道具科の仲間たちにも声を掛けていたのだ。
どうせならみんなで強くなりたいしね!
…け…決して、“クリントンとマンツーマンだと間がもたないし、何よりむさっ苦しい…”なーんて思ってる訳じゃあないからね、そこんとこよろしくぅ!
そして俺たちが今いる場所。
そこはズバリ!このレイン君が一生懸命造った、地下訓練場なのだ!!
この間、学校にある既存の演習場を使わせてもらえないかどうかテティス先生に確認したところ「自主活動として貸すことは可能だよ☆キラリ☆でも規則で、毎日夕食後一時間までしか使えないけど、大丈夫かな☆?もひとつキラリ☆」と、いつものスーパーハイテンションで教えてくれた。
また、学校の施設なので、当然ながら貸し切りというのは不可能だったし、
そこで俺は「ならいっそ、訓練場を作っちゃうか!」という発想に至ったのだ。
んでもって、せっかく造るなら誰にもバレないような地下深く、そして悪の組織のような秘密基地風にすれば、ここを拠点にして、訓練の他にも色々できるというわけでぇ…。
…にしししし!
「…おい!妄想の世界にどっぷり浸かっているところ悪いが、レインフォードよ。ここはかなり広いようだが、一体どれくらいの敷地なのだ…?」
「ん?まあ東京ドーム1個分くらいは余裕であると思うよ?」
「ト…トーキョードーム?…何だそれは?広さの単位か何かか?」
おっと、いけないいけない。
いきなり話しかけられると、ついつい出ちゃうんだよな。
「あっ、ごめん。まあ見た目どおりさ。校内の演習場なら10個分くらいは軽く入るんじゃあないかな。あと壁と天井には三重の耐熱レンガを敷いてるから、ちょっとやそっとじゃあ壊れない仕様だよ。加えてそれらの表面には、光魔法結界コーティング仕上げを施したから、強度はさらに倍!あと当然この設備の大外には、しっかりと真空の壁を作っていて防音効果もばっちり!!もちろん、空気穴も通してるんで、窒息する心配なんて全くないし、さらに万が一怪我をしても…」
「…も…もういい…!聞いた私が馬鹿だった…。ようわからんが、相変わらず貴様がでたらめな奴だということだけは、再確認できたわ…」
そうやって憎まれ口を叩くのは、今日もたっぷんたっぷんのお腹を揺らす、安○先生もびっくりのクリントン・アルバトロス。
顎のお肉も、みゅ〜、たぷたぷたぷたぷ!ってしようか?
「まあそう言うな、クリントン。彼の非常識さは、皆すでに折り込み済みだろう?要は、非常識を非常識と思わなくなるよう、強くなればいいのさ」
「そうだぞ、クリントン。男ならどっしりと構えとけ。ま、俺はお前の突っ込み、実はけっこう好きなんだけどな!わははは!!」
「むむぅ…。クロウやエドガー様がそう言うなら…。し…しかし、よくまあこんなとんでも物件を造ることを学校側が許可したものだなぁ…」
キョ…キョカ…?
キョカ…キョカ…。
ナニソレウマイノ…?
俺は無言で微笑んだ。
どう?この晴々とした笑顔は。
「おっ…おい!?レインフォード貴様、その不穏な笑顔はなんだ!?きょっ…許可は取ってあるんだろうな!?」
「…が…学校規則には、地下に物を造ってはいけないという記述はなかった…よ?」
俺は頭の後ろで腕を組むと、あさっての方向を見ながら、口を尖らせて口笛を吹くフリをする。
「アッ…アホか貴様!?こんなどでかい物、しかも地面の下の奥深くに造るなどという馬鹿げた事案、誰も想定せんわ!!というか規則違反とかいう問題でなく、大規模な構造物の無許可の建設は、むしろ法律違反だからな!?」
「…オ…オデ…ジ、ヨメナイ。…オウコクノコトバ…ワカラナイ…」
「なぜ突然の片言!?というか、ついさっきまで規則に載ってなかった云々と言っとっただろうが!!?」
どんどん詰め寄ってくるクリントン。
は…腹を押し付けるな、腹を!
「わ…わかった、もうわかったから。また今度、理事長辺りに説明しとくよ。最近ちょっと話す機会があって知り合いになったからさ…」
「ぜ…絶対説明なんかせんだろ貴様…。はぁ…」
「はははっ!まあいいじゃねえか、クリントン!規則なんてぶっ飛ばせるくらい、俺たちが強くなればいいんだよ!なぁクロウ?」
「ふっ。道理だな」
右手の親指でサムズアップ、白い歯をキラリと輝かせるエドガーと、目を閉じてクールに前髪を整えるクロウ。
ちぃっ…絵になるイケメン野郎どもめぃ…。
こういう場面では俺、クリントンLOVEよ、LOVE。
「あのう…そうはおっしゃいますがエドガー様?…そ…そんな違法建築物の出入口が、なぜか…なぜか私の部屋の、私の机の下に設置されとるのですが…これは一体どういう…」
「「ちっちゃなことは気にするな!」」
「…ガーン!?……シクシク…(エ…エドガー様もクロウも、意外と脳筋なのか…?トホホ…)」
ご…ごめんクリントン…。
俺…小心者だからさ、バレて怒られるの怖かったんだ…。
テヘペロ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます