第85話 授業中って、どっかから睡眠ガスみたいなの出てない?
「…であるからして…魔法というものは、いかに素早く正確に詠唱をできるかが鍵に……むっ…?」
スー…スー…。
「…レインフォード君」
スー…スー…。
「…くっ…。レ…レインフォード君…!」
ングッ…ンン…ン…。
「…にゃははは、勘弁してよワッツ〜。もう飲めないよ〜?いやいや、芋焼酎原液はさすがに無理だよ〜…ギヒヒヒ…じゅるじゅる…うまうま…」
……スー…スー…。
「むくっ…、うぬぬぬ…!?おっ…起きたまえ!レインフォード・プラウドロード!!?こら!!起きんか!!」
ガタタン!
「はっ…はい!?すみません、父上!ワッツです!ワッツなんですよ!隠れて酒盛りしようなんて言い出したのは!!ぼっ…僕は何度も止めたんです…けど…って…あれ?」
俺は突然名前を呼ばれて立ち上がったのだが…。
「あれ…、芋焼酎は?俺のぷりぷりエビチリは!?」
俺がよだれをたらしながらキョロキョロと周りを見回していると、ふと視界の隅に、教壇の上でプルプルと震えながら額に青筋を立て、真っ赤な顔で、こちらを睨みつけるサイモン教授の姿が…?
「…お目覚めかねぇ…レインフォード君…。よりにもよって私の授業中に、ずいぶんと楽しそうな夢を見ていたようだねぇ…?」
「…?」
もう一度左右を見ると、俺の左隣で右手で顔を覆ってため息をつくエドガーと、少し前で俺の方を振り返りながら、プッと吹き出すクロウの姿が目に入った。
また、少し離れた位置に座るクリキントン君も、厳しい目つきで俺を睨んでいる。
げげ〜…しまった…。
俺、居眠してたのか…。
そういや今日は4クラス合同の必須科目、サイモン教授の魔法理論の講義だった…。
やべ…これあかんやつか?
「いや…その…精神集中と言いますか…なんと言いますか…にゃははは…」
俺は後頭部をぽりぽりかきながら、愛想笑いを浮かべる。
か…可愛らしい笑顔でしょ…?
「ふんっ…。よだれを垂らしながらの精神集中とは、大したものだな。…老朽化していたとはいえ、演習場を破壊してしまう程の魔法使いである君には、私の講義など必要ないということかね…?」
「けっ…決してそんなことは!!僕はこの学校でより多くを学び、将来ゴロゴロ寝ながら左うちわの生活ができるようにと…!げ…現に“あまあまスイーツで、財布の紐もユルユル作戦”は程よく進行中で…」
「…も…もうよい…。座りたまえ…」
「…はい…」
ぷぷっ…。
くすくすくす…。
くっ…恥をかいてしまったぜ…。
焦って変なこと口走っちゃったし…。
ま…まぁどう見ても俺が悪いが。
実は最近、シナモンダディ食堂があまりに大盛況で、ついついココから相談されると、深夜まで新しいメニュー(無論前世の知識をフル活用だが)を考えたりしてしまい、寝不足になってしまっていたのだ。
これまでは食べ残しが多く、食材のロスも散見されていたらしいが、最近では学生から次々にお代わりを求められるので非常に作り甲斐があるとのことで、シナモンダディは嬉しい悲鳴を上げていた。
そんな中でも現在ダントツの一番人気は、試験的に導入してみた、いわゆる“チョコパフェ”だ!
ちょっと前にユリが、たまたま寄った国内の港町で仕入れてきた、何やら黒い物体。
これがなんと味も食感もチョコレートにそっくりで、よくよく調査してみると、付近に自生するカッカーオという植物の実を加工し、地元民のちょっとしたオヤツとして食べられていただけの物だったらしい。
…ひえー!もったいない!!
前世では、老若男女問わず人気だったチョコレート。
バレンタインデーなど、俺が毎年血の涙を流す悲しいイベントもあったが、たった一欠片で男1人の人生の明暗を分けるといっても過言ではなかったこのチョコレートに、大きな商機を見出した俺。
早速ユリに頼んで仕入れや加工のルートを確保・拡大・独占してもらうとともに、王都で大々的に売り出す前に、この学校で試験販売してみることにしたのだ。
異世界においても味覚の差異はほとんどなかったので、チョコパフェもそこそこ売れるだろうと予想し、若い世代、特にレディたちをターゲットに絞って挑戦してみたのだが、結果は想像以上の大成功!!
ココにより、“堕天使の
生クリームやチョコレートなどをふんだんに使用しつつ、洗練された美術品のような造形美まで追求したそれは、学内の淑女たちに、天にも登るような至福の時をもたらしたらしい。
…だがその多幸感と引き換えに、おどろおどろしい効果音とともに、取り外すことのできない呪いの装備のような“贅肉”という恐怖の副産物をも与えているところが、まさに堕天使たる所以だろう。
しかしそれでもレディたちだけでなく、今では多くの男子生徒や、普段あまり食堂を利用しなかった教員たちにも人気が浸透しつつあるのだ。
細かな改善点や仕入れの加工の調整は必要だろうが、これなら本格的な販売をしてもきっと大丈夫だろう。
ボソボソ…教壇でお怒りのサイモン教授も隠れて食べてるらしいし…ボソボソ…。
ま…まあ些か話が脱線してしまったが、そんなこんなで、寝不足のレイン君というわけだったのさ。
「…では気を取り直し、魔法の基本的な説明を行う。我々魔法使いは、それぞれに適性のある火・土・水・風の“いわゆる地の4属性”と呼ばれるこれらを基本とし、魔法を行使するのは周知の事実だな。諸君らはこれら4属性のいずれかに関し、他の者より高い適性を備えているからこそ、この魔法学校に入学してきているわけであるからな」
カツ、カツ、カツ。
サイモン教授は広い教壇をゆっくりと歩く。
「だが中には複数の属性に適性を有する者もある。例えば火と風の属性、水と土の属性といった具合にな。この場合、統計的には、性質が対極に位置する属性よりも、隣り合った属性に適性を持つ者が多いのが常だ。例えば、水属性のブラックタートルクラスに所属しながら、先日見事な土属性魔法で、
イエイ!とばかりに、クロウがにやりと笑いながら、俺に向かってピースサインを出した。
その右側に座る従者ルナレイアも、ちらりと俺の方を見る。
非常に冷たい目で(涙)
サッ、サササッ。
教壇に設置された木製の板に、黒インクでササッと文字を書いたサイモン教授。
どうやら各属性の関係性を表す図式らしい。
火 光
風 ◇ 土 〜
水 闇
「また今日は詳しい説明は省くが、ここに書いたように、先程の地の4属性の他にもう1つ、
ほえ〜。
やっぱり光や闇の魔法って特殊なんだ…。
まあそもそもシルヴィアのやつが長年眠りについた理由が、たしか光属性の魔法使いが少なすぎたから云々と言ってたしな…。
…にしても…ふあぁぁ…、眠…。
あぁ…頭ではメモしなきゃ〜と思ってるのに、意識が…。
字が…ミミズに…字……ミミ…。
「…むむっ…!…きょ…今日の話は、前半に説明した魔法詠唱理論とともに、一言一句漏らさず書けるようにしておきたまえ。必ず定期試験に出題するからな…!」
「…はっ!?」
いっ…今、教授テストの話してなかった!?
げぇ…お…俺の羊皮紙、何が書いてあるか全くわからん…。
「(お…おい、エドガー、ちょっとメモしてるのを見せてく…)」
俺は隣に座るエドガーを小声で呼び、肘でツンツンしたのだが…。
「…Zzzz…」
こいつもいつの間にか寝とるがな!
オワタ!!
「…さて、諸君らも入学してしばらく過ぎたわけだが。そろそろ選択学科が始まる頃合いだ。各々熟慮の上、選んでおくように。自身の行く先を見通すことなく漫然と選択すれば、ただ無為に時間を浪費することになるのでな」
パタン、と手に持って開いていた分厚い本を閉じ、全員にそう伝えるサイモン教授。
現在受講している魔法理論の講義をはじめ、先日悲しい事案が発生した演習場における魔法演習、その他魔法戦術等、複数の授業が魔法学校の必須科目となっている。
それとは別に、選択学科として自ら希望すれば様々な科目を勉強できるのだが、俺はそれら中でも魔道具科、薬学科、魔獣研究科など、将来(主に商売)役立ちそうなものを、あらかじめピックアップしていたのだ。
(おぉ…ついに来た!これを心待ちにしてたんだよな、選択学科!)
俺は目を血走らせながら、手元に資料として用意されていた羊皮紙をガン見する。
よだれでべしょべしょに濡れているが、そんなことは気にもならぬ!
「むふ…むふふ…、うひひひひ…(楽しみだなぁ…。特に魔道具科っていいなぁ…。にへへへ…、ユリじゃあないが、儲け話の臭いがぷんぷんするぜ…)」
おっと、ついついいやらしい笑いを浮かべてしまったか。
周りの若人たちにドン引きされているが仕方ない。
誰にも邪魔されずに授業として商品を開発できるんだからな、笑いぐらい漏れ出ちゃうってもんだぜ。
「ゴホン。ここで1つ諸君らの資料に補足事項があるのだが、そこに記載されている“魔道具科”なのだがな、それについては
な…。
な…な…。
「なんだってぇーーーっ!!!?」
お…おお…俺が最も心待ちにしていた魔道具科が…な、な、な、無くなるだとぉ!?
俺はサイモン教授の言葉に驚き、気が付くと、大声を出しながら思わず机の上にまで上がってしまっていたのだった。
…なお、後できっちり廊下に立たされたとさ。
しゅん…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます