第74話 王都魔法学校正門前にて
「はーい、新入生の皆さん!受付はこちらでーす!」
「ほら!サッサと並んだ並んだ!おいそこ!順番抜かしをするんじゃあない!!二度と動けないよう、頭のてっぺんから爪先までカッチンコッチンに凍らせちまうぞ!!」
弾け飛ぶ怒号。
人気同人サークルの新刊発売のような長蛇の列。
最後尾のプラカードは無いが。
目の前にはバカ高い壁、門、壁。
外から見ても、かなり広大な敷地をカバーしているのがよくわかる。
また、その広大な敷地の周りには、防衛のためか、巨大な結界が張られているのが感じられる。
勘のいい者にはすぐにわかるだろう。
そう、ここは王都魔法学校の正門前。
マッチョ父の智略謀略・権謀術数に騙され、俺は結局ここに入学することになってしまった。
…まあ決め手はエリーにかっこいい姿を見せたいという俺の誤った承認欲求だったのだが…。
「はぁ~…」
自分の受付の順番を待つ傍ら、俺は大きなため息をつきながら、がっくり肩を落とした。
(…エリーの期待に応えるために入学を決めたとはいえ、前世からカウントすりゃあオーバー40なんだよな、俺…。こんな場所で3年とか…一体なんの冗談だよ…)
周りを見ると、ほぼ同い年くらいの男女が数多く並んでいる。
概ね100人いるかいないか…ってところか。
中には若干年上も混ざっているようだが…。
並んでいる彼らの中には、緊張を押し殺して強がる男の子、華やかな未来を夢見てキャッキャウフフの女の子、ゴテゴテした派手な装いの一見して貴族のお坊ちゃんなどなど。
また、人族だけではなく、獣人やドワーフの姿なんかもちらほら見かける。
「はぁ…。みんな若いよなぁ…。はぁ…」
俺が再び大きなため息をついたその時。
バシィ!
「痛ぇ!?」
不意に背中を強い衝撃が駆け抜けた。
「ぐっはっはっはっ!何をジジ臭いことを言っておるか、レインよ!そんなしょぼくれた顔、お主には似合わんぞ?」
『ワンワン!』
俺の背後からシルヴィアの能天気な笑い声が上がる。
同時にシロが、元気出せよ?とばかりに、体を擦り寄せてくる。
「はぁ…。シロやシルヴィアは元気そうで羨ましい。…3年ですよ、3年?…僕の貴重な時間が…」
「んん?珍しくお主らしくない物言いだのう。長い人生のうちのたった3年など、まばたきをする間に過ぎ去っておるだろうに」
「ふっ…。ドラゴンの時間軸で物事を考えないでください。マッチョ父に体良く騙されたせいで、僕の様々な計画が変更または頓挫を余儀なくされてしまいましたからね…」
あぁ…、もったいないことしたな、特に巨大ワームの件とか…。
うう…ワームレース…賭け金…生活設計…。
半泣きで遠い目をする俺に、シルヴィアは首を傾げた。
「ふむ?ならばいつもどおり、また新しい計画を考案すればよいではないか」
徐々に進んでゆく列を、死んだ魚のような目で見つめていた俺だが…。
「あ…新しい…計画…?」
「おうさ。どうせ目的は将来の安寧と怠惰にまみれた生活であろう?なればこそ、この魔法学校とやらで、いつしか己が欲望を満たすための眷属なり、道具として使役するための下僕なりを抽出して服従させておけばよいではないか。そのための準備期間と考えれば、まばたき程の時間でも無駄にはなるまい?」
(…な…成程。確かにそれは一理あるな…)
欲望とか下僕とか言い方はちょっとアレだが、要はここで色んな相手と人間関係をきっちり醸成しておけば、将来WINWINの関係になれる奴もいるだろうし、より一層楽ができるってもんか…。
…むむむ…俺としたことが…。
学校が面倒くさいっていう小さなことだけに囚われて、大局を見誤っていたか…。
(…しかしまさか、俺がシルヴィアに諭されるとはねぇ…)
ぽんっ。
俺はシルヴィアの両肩に手を置いた。
「…ぅおお!?ど…どうしたレイン!?」
頬を紅潮させ、ドギマギするシルヴィア。
その姿がちょっと可愛い。
「ありがとう、シルヴィア。あなたの言うとおりですね。…僕としたことが、大事なことを見落としていましたよ。この3年、輝かしい未来のため、有意義に過ごしましょう!これからもよろしくお願いしますね!」
「…そ…そうじゃろう、そうじゃろう!?もっと褒めてよいぞ!伊達に歳は食っておらん故な!!ぐっはっはっはっはっ!!」
『ワンワン!アオーーン!!』
シルヴィアはふんぞり返って大喜び。
シロも俺の周りをクルクル回り、顔をペロペロ舐めてくる。
…シロにまで心配をかけていたか。
俺としたことが…ごめんやで。
やっと調子が戻ってきた俺。
よしよし、なんか楽しくなってきたぞ!
いっちょ頑張るか!
ずっともやもやしていた俺の心の中が、久しぶりにすっきりと晴れ渡ったような気がする。
しばらく可愛いエリーに会えないんだ、その分頑張って未来のために役立てないとね!
俺は意気揚々と、新たな一歩を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます