第九話(夜空視点) "ありがとう"

 あの日、私は元カレに出会ったーー。


「お、夜空じゃん」と元カレは私に近づいてきた。


 その瞬間、あの時の出来事が頭の中を駆け巡った。

 忘れようとしていた……でも、忘れられなかったあの日の出来事が……。


 その瞬間、私を逃げさせないように石のように動かなくなる身体。


「いやぁ〜、突然不登校になったから心配してたんだぞ?」と元カレは私に近づく。


 私は怯えながら後ろに下がる。


 なんで……なんで……なんで……なんでこいつがここに居るの……。

 私はこいつから逃げる為にこんなに遠いところに来たのに……なんで居るの……。


「そう怖がるなって……まぁ、なんっつーか……ごめんよ?」


 なんであんな事をしておいてこんなに平然といられる……。

 今からまた私がスタートを切ろうとしていたのに……なんで、私のスタートを邪魔しようとするの……。


「まぁ、俺も夜空が居なくなって何度も先生に呼び出されてよ? いろんな目にあったんだぜ? ぁあー、心配してたしさ、お詫びぐらいなんかないの?」と私の胸をニヤッとしながら見た。


 私は咄嗟に胸を手で隠した。


「いやぁ〜、2年で成長したなぁ〜。昔からまぁまぁあったけどよ?」


 気持ち悪い、気持ち悪い……。

 また、そうやって私を見るの……。


「なんか、喋ったらどうなんだ? 俺だって悲しいぜ……」と元カレは私の目の前まで歩き、私の顎を手で抑えて顔を近づけた。


 柔らかい感触……昔の頃のような……あの感触……。

 頭がぼーっとするあの感触が蘇る。

 

 そう、それは紛れもなくキスだ。


 私は急いで元カレの両肩を押した。


 周りでは「おいおい喧嘩か?」などと話している。


「や……やめてください……」

 

 そう私は勇気を絞って言い放った。


「お、やっと喋ってくれた。でもよぉ? 久しぶりに言う言葉の最初がそれ? 俺、少し残念だよ。そこはさ……『またしよ?』だろ?」と元カレは私の胸を触った。


 私は咄嗟に元カレから離れた。


 その瞬間、あの頃の恐怖とともにあの頃の快楽が頭の中で駆け巡る。


 やめて……私を……私の高校生活を潰そうとしないで……。


 気づけば、目から涙が零れ落ちていた。


 ただただ、怖い……それだけだった。


「そんなに俺に会えて嬉しかったのか? 俺も嬉しいよ……だからさ、久しぶりにしよ……」

「嫌です……」とスカートの袖を持ちながら勇気を振り絞って言う私。

「何々? 敬語って。俺たち付き合ってんだから別に敬語じゃなくて良くね?」

「付き合ってません……もう……」


 たしかに「別れる」なんて言わなかった。

 元カレと話したくなかったからだ。

 でも……この人は狂ってる……私と2年も会っていないのに……それでも付き合ってるなんて……。

 でもそれは、愛情なんかではない……ただヤりたいからだ。


「ぁあー、もういいや。のところはさ……一応LINE交換しとこ? 昔のお前のLINEアカウント、変えただろ?」と元カレは私の携帯を勝手に取って勝手に私をLINEに追加した。


「鍵ぐらい掛けとかないとダメだぜ? まぁ、良いや。後、あの時の動画送っておいたから……それ見てまたしたくなったら呼んでくれ……俺もしたいからさ」と笑顔で元カレは言って帰って行った。


 その姿は恐怖でしかなかった。

 何も反省していない。

 いや、そもそも「自分は悪くはない」そんな顔をしていた。


 私はその場で両膝をつけ倒れた。


「なんで……なんで私なの……」


 気づけば、大量の涙が目から流れ出した。


 ぁあー、神様……私は何か悪いことでもしましたか?

 私が男嫌いだから? 

 なら、男嫌いじゃなくなります。

 私が不登校だったから?

 なら、高校生活は皆勤賞目指します。

 私が彼とまた会った理由は何ですか……?


「そんなの理不尽じゃん……なんで、なんで私なの……」


 私が何でこんな目に遭わなきゃならないの?

 元カレじゃん……こういう目に遭わなきゃならないのは……。



 家に帰ると元カノのLINEを開いた。


 そこにはあの時の動画が……。

 そして、『やべ、久しぶりにこの動画見たらまたしたくなったわwww』


 次の瞬間、私は吐き気に襲われたトイレに駆け込んだ。

 そのまま、私は嘔吐した。


 結局、私には平穏な日常なんてもう来ないんだ……。

 少しでも「平穏な高校生活」を送ろうと思った私への神様からの罰なんだ……。


「助けてよ……助けてよ……誰か……」


 その日は涙が枯れるまで泣き続けた。

 

 あの時、何もできなかった私。

 ただただ、その私を憎んだ。



 昨日は一睡も出来ず、無のまま何も考えずにいた。


 これが天罰だとしたら……私は一人で生きなきゃダメなんだ……。

 助けて……優斗くん……私を……。


 次の瞬間、「夜空さん……俺はここで待ってる……だからさ、機嫌をなおしたら出てきてくれ……」と玄関から鳴り響いた。


 別に優斗くんのせいで機嫌を悪くしてるわけじゃないんだけどなぁ……。

 なんで、私を一人にさせてくれないの?

 ひどいよ……優斗くんはひどい……。

 だって、私を……何もない私を助けてくれるんだもん……。


 そんな事を思っていたら時間は経過して行き8時を過ぎていた。


 まだいるのかな?

 いないで欲しい。

 これ以上、私を甘やかさないで欲しい。


 そう思うと私は玄関に向かった。

  

 彼は私に気づいたのか私の方を振り向き「やっと来たか」

「なんで、なんでいるの?」


 安心したからか。


 目からは、昨日もう二度と出ないぐらい出したのに涙が大量に溢れた。


「お前を助けるためだ」


 そう彼は笑顔で言った。


 "ありがとう"

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