46 彼女とテントで

その後悠斗と一旦別れて、自分のテントまで戻った。


「結城さん。お疲れ様です」


「ありがとう。立花もお疲れ様。どうだった?」


赤いかごを背負った坊主の生徒は、元気よく逃げ回っていたが、その逃げ回る場所が立花の周りだった。


だから立花のことは良く目に入ったので、どんな感じだったか分かっているけれど、一応聞いておく。


そして彼は、彼女の近くに行って注目してもらいたかったんじゃないだろうか。その気持ち、何となく分かるよ。


頭の中で嬉しそうに走り回っていた彼にサムズアップしておく。


「はいっ。良い場所に居てくれたので、沢山入れましたよっ」


「そっかそっか。良かったよ」


「そんな事より結城さんです。あんなに上手なんて聞いてないですよ?」


「ははは…。なんでかは分からないけれど、手先が得意なんだ…」


最後にもまた「ははは…」と頭を掻きながら言う。


「私の位置から結城さんが良く見えて、どんどん入れていくんだから驚きましたよっ」


立花が顔を赤くしてそんなこと言ってくる。


なんて可愛い生物だ。


「俺も立花が良く見えたよ。真剣に取り組んでる姿、格好良かった」


俺がそう言って笑っていると、何も返事が返ってこない。


気になって顔を見てみたら、不満そうな顔をしている。


なんだなんだ。


「どうしたの」


「私も結城さんが頑張っている姿、〝可愛い〟と思いましたよっ」


…。なるほど。そう言うことですか。


格好良いって、言って欲しかったんじゃないんだな。


俺は恥ずかしいのを誤魔化すように頬を掻いて、立花の方を向いた。


彼女は期待するような目で俺を見ている。




「…立花は、可愛かったよ」


俺がそういうと、立花は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


これを言って欲しかったんじゃないの?!


少し待っていたら、落ち着いてきたのか彼女はゆっくりと顔をあげた。


「…ふう。我が儘な事を言ってごめんなさい…。どうしても言って欲しかったので…」


「こちらこそごめん。女の子に格好良いってのは、違うよな…」


立花の可愛い我が儘なんて、いくらでも聞いてやりたい。


もっともっと、俺に甘えてほしいのだ。


でも、ちょっと言っておかないといけないことがある。


「立花」


「はい?」


「さっきは、言わされてみたいに可愛いと言ったけれど、立花は本当に可愛いと思ってるよ」


「…!」


「綺麗なその黒い髪も。鈴を転がすようなその声も。とっても優しい性格や、料理が上手な所まで全部。…全部ひっくるめて、可愛いと思うよ」


「ゆ、ゆゆゆ、結城さんっ!?そ、そんなっこ、こんな所でっ…!」


「言わされて言ってるんじゃなくて、本当に思ってるって知って欲しかった。それだけ。以上!お終いっ」


顔から火が出るくらい恥ずかしいかったので、無理やり話を終わらせて、言い逃げした。


彼女が顔を赤くした所なんて沢山見てきたけれど、その中でも今の立花は最高に顔が赤くて、可愛らしかった。


「ゆ、結城さんが言ってくれたのなら、わ、わ私だって言います!!」


「い、いや別に言わなくても」


彼女は俺の発言を見事にスルーして、話し出した。



「いつも優しいその目。羨ましいくらいさらさらなその髪。真面目に勉強している所、料理を頑張っている所。気さくなその性格全部、格好良くて好きだと思ってますっ!!」



テント中に響き渡るくらいの声で、俺の良い所を言ってくれる。


立花がとても顔を赤くする理由が分かった気がした。


嬉しすぎる上に、そんな事を皆の前で言われたら、恥ずかしくて仕方ない。



「あ、ありがとう。立花。次があるからもう行こうっ」



皆の視線や、ざわざわとした声がする。



次の種目は借り物競争だから、それを理由にここを離れよう。




俺も立花も顔を真っ赤にしたまま。手を取ってその場から逃げ出すのだった。

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