22 彼女と洗い物
俺は立花のカレーがあまりにも美味しくて、一度おかわりをした。
立花はおかわりをすることは無かったが、俺がぱくぱく食べているのを見て少し笑っていた。
俺がもし立花の笑顔を意識すれば、忽ち顔が赤くなってしまうので、カレーを味うことで意識をそらしていた。
俺がおかわりを完食すると、立花のお皿を持って台所に向かおうとする。
俺が立花のお皿を手に取ろうとすると、立花は意図を理解したのか、慌てて自分のもとに引き寄せ、「…これは私が洗います!」と言った。
俺は立花の行動がなんだか可愛らしくて、少し目を細めてしまった。
立花は俺の反応を見ると、「…な、なんですか」と少し睨んできたが、どこか楽しそうに見えた。
俺は目を細めたまま「じゃあ一緒に洗い物をするか」と言えば、立花は顔を少し赤くして「…はい」と言った。
俺は料理ができないだけであって、それ以外の家事は母のために大体できるようになったんだ。
まあ料理なんかしない俺は一人暮らしを始めて、鍋を洗うだの、二人分のお皿を洗うだの、全然しなくなったから腕は鈍ってしまったのだろう。
お皿の汚れを綺麗にするのにさえ、時間をかけてしまっている。
立花の動きをちらりと見れば、あっという間に汚れが落ちてピカピカのお皿が誕生している。
「すごいな、立花。あっという間に汚れが落ちてる」
俺がそういうと、立花はふと手の動きをとめる。
「そうですか?まぁ、慣れれば結城さんもこれくらい出来るようになると思いますよ」
立花は「見ててくださいね」と言い俺からお皿を取って、スポンジでお皿を擦り始めた。
立花は「ここをですね」と至って真剣に教えようとしてくれている。
だが俺はというと、可愛らしくて優しい少女が、俺のために真剣に教えようとしてくれていることがなんだか嬉しくて、胸が温かくなった。
立花の一挙一動を優しく見守っていると、俺が話を聞いていないことに気付いたのか、立花はむすっとした顔をする。
「結城さん、聞いていますか?」
立花がジト目を向けて、相変わらずむすっとした顔をする。
「いや、ごめん立花が可愛くて、話が入ってこなかった」
嘘を言うわけにもいかないので、本当の事を包み隠さず伝える。
立花は俺の発言を聞くと、急にのぼせた様に一気に顔を赤く染める。
なんでそんなに顔を赤くするんだろう?
いや恥ずかしいんだろうけどね?俺に何を言われようとなぁ…。
「…やっぱり結城さんは…おばかでずるいです…」
「なんでや」
何がおばかでずるいのか分からないが、少し慣れてきたのであまり驚きはしない。
でも立花が真剣に教えてくれてたのに、それを聞かないなんて今更ながらとても悪いことをしたなと思う。
謝って、もう一度教えてもらおう。今度は、絶対に聞き逃さないぞ。
「立花、ごめんな。今後はちゃんと聞くからさ、もう一度教えてほしい」
俺がそう言って謝ると、立花は少し笑った。
そしてわざとらしく溜息をついた。
「…はぁ、一回だけですからね?聞き逃したら許しませんよ?」
立花はそう言って怒っているように見せているが、顔を少し綻ばせているのが見え見えだ。
俺は「分かったよ」と言って、ちゃんと話を聞きながら、しばしこの暖かい雰囲気を楽しんだのであった。
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