15 彼女の寝顔

俺は正直三度見した。


驚いて二度見、というのはよくある話なのだが、人生で初めて三度見をした。


そんなことはどうでもいい。


少し離れているが、隣で規則正しく寝息を立てる彼女にどうしたものかと、とても悩む。


まず一つとして、なんで他人の男の家で寝ているんだ。


俺が寝たのを確認したら、帰るんじゃないのか。


風呂とかは、俺の家に来る前に一度入ったのだろうか、とてもいい匂いがする。


俺はまじまじと彼女を観察する。


色白の肌に、出るところは出て、引っ込む所は引っ込んでいる彼女の体。


極めつけは誰もが振り返るその容姿。


少しだけ触ってもばれないのでは無いのだろうか。


頭や頬などは、ばれても良くはないが、とても悪いというわけじゃない。


男のロマンである胸部は、まずばれたら死ぬ。


それは社会的にも、肉体的にもである。


彼女はスクールカーストの頂点に君臨する女王クイーンの様な存在なので、彼女が何かを言えば、俺は虐めや無視などをされるだろう。


肉体的には、その場で金的を食らえば動けないし、彼女は俺からとても距離を置くだろう。


距離を置かれた場合、料理を届けに来てもらえなくなり、俺は一瞬の要求のために人生から色を失うことになるのだ。


俺はそんな馬鹿な真似はしない。


強靭な精神力で耐え、観察するだけに留めることにする。


まぁ、観察だって普段からじろじろ見れないしな。


別のところに意識が向かないよう、立花の顔を見る。


顔のどこを見ても、美しいとしかいえない。


誰もが認める美少女だ。


だがそれは表面的な物に過ぎない。


いくら顔を観察しようと、彼女がどれだけ苦しいのか全てはわからない。


時折見せる悲しい顔も、どこか我慢しているようにも見える。


彼女が親に何をされたのかは、今は聞けない。


そこまで親しくないからだ。


でも彼女がそれを話したくなった時には、いくらでも聞いてやろう。


俺と立花は出会ってまだ日は浅いが、彼女が本当に優しい子だという事はわかる。


こんなに優しくて、いつも頑張っている彼女は、幸せになるべきだ。


いや、ならないといけない。


でも俺にそれは出来そうにない。


悲しい事だが、しょうがないのだ。


俺の恋とも言えない、よくわからない感情は、一度忘れよう。


意識をしないうちに、俺の右手が立花の頭付近まで伸びていた。


今手を戻せば、何もない。大丈夫だ。


俺は欲望に必死に抗い、手を少しずつ引っ込める。


ふと立花の顔を見ると、寂しそうな顔をして眠っていた。


この顔は、悲しい時の顔に少し似ている。


何か悪い夢でも見ているのだろうか。


俺はこの顔を見ると、なんだか泣きそうになる。


一回だけ、本当に一回だけ撫でたら立花を起こして、時間も時間だし一緒に家に帰ってもらおう。


俺は繊細なものを触る思いで、立花の頭を撫でた。


俺の指が、立花のさらさらな髪の毛を通る。


これはとてもいいな。


一生撫でても飽きない感覚だ。


立花の顔をちらりと見る。


立花は頬を赤くして眠っている。


俺はどきりとしてしまった。


いかんいかん、はまってしまって一生撫でるところだった。


俺はゆっくり立花の頭から手を離す。


俺はまた立花の顔を見る。


立花は嬉しそうな顔をして眠って…あれ。


おかしいな。俺立花と目が合ってるんだけど。


立花は頬と耳を赤く染めて俺を見つめてるんだけど。


これもしかしてばれちゃった?結構やばくないか。


頼む。ばれてないでくれ…!


「何で頭撫でたんですか」


少し震えた声で、立花から声が掛かった。


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