06 彼女の料理

気が付けば一時間勉強していた。


なぜ勉強をするかというと、しないと周りに追いつけないからだ。


俺は地頭があまりよろしくない。


でも日々努力して、県内で二位の学校に合格することができた。


なぜ一位の学校に行かなかったかというと、学費が高かったからである。


今俺の通っている鳴海高校は、学費も安く、良い学歴が手に入る上に、面倒見の良く教え方の上手い先生が沢山いるという優良物件だ。


俺みたいに努力で入ったやつもいるが、勿論天才もいるわけで、天才の中にも俺より努力する奴だっている。


そんな中凡才の俺が努力を怠ると、学年ビリなんて余裕であり得る話だ。


今はまだ上から数えたほうが早い順位だが、少しでも手を抜くと、百位以下になってしまう。


そして今、入学した直後に行われたテストで、二百人中一位の立花日向たちばなひなたが俺の家の前にいる。


彼女は物覚えもよく、容量が良い上に、俺以上に努力するタイプだ。


人当たりもいいので、生徒や先生からも信頼が厚く、人気な彼女。


だが本心は、あまり人と関わりたくないらしく、誰にでも心を許していないらしい。そう、親にも。


何が彼女をそうしたのかわからない。


彼女もそこに触れてほしくないオーラ全開なので、聞く気はない。


人とあまり過剰に関わりたくないと言っていた彼女。


そんな彼女が俺の家の前にて、手に何か持ちながら俺が出てくるのを待っている。


なんどもドアスコープを覗き直して確認した。


やっぱり彼女だ。


今日は結構かかわった気がするけどな。


何事だろうか。まあ早く出ないと。


ドアを開けると、彼女と目が合う。


「こ、こんばんは。どうしたんだ?」


「こんばんは。今日は助けていただいたので、夕飯のおかずを渡しに来たのですが、如何ですか」


えっまじですか。相変わらず表情は凍ってるけど、根は本当に優しいんだろう。


前の一件もあって、彼女の性格が少しわかってきたかもしれない。


「嬉しいよ、ありがとう。でも本当に良いのか?」


「はい。助けていただいたお礼です」


彼女はお礼といって、夕飯のおかずが入ったタッパーを渡してくれた。


話は終わりかと思ったが、彼女は「そして」と続けた。


「今日はおにぎりだけで済ませようとしていませんでしたか」


図星ですね。いやだってたんぽぽ飽きたもん。


あんまり美味しくないし…


「そうだな。今日はおにぎり二個のつもりだった」


「なら尚更です。これでも食べて、調子を整えてください」


「本当にありがとうな。タッパー洗って返すよ」


「家知らないでしょうに。明日取りに来ますよ」


彼女は「それでは」と言って、スタスタと家に帰っていった。


相変わらずあんまり喋らないな。まあ別にいいんだけどさ。


俺は家に入って、おにぎりと一緒に彼女のおかずを食べることにした。


まだ少し温かい。


「これは…豚の角煮だな」


匂いはとても食欲をそそるし、豚と大根と卵が入っていて、おかずには十分だ。


「いただきます」


ぱくり、と豚の角煮を食べる。


味の感想を言うのに、時間はかからなかった。


「うまい」


自分でも驚くほど、ぽろっと言葉が出てきた。


本当においしい。優しい味で、あまり濃い味付けが好きじゃない俺にとっては、完璧と言える料理だ。


「おにぎりと一緒に食べると、本当に幸せだな」


白ご飯で食べたいのだが、今はおにぎりしかないのでしょうがない。


気が付けば完食していて、とても満足した。


「あいつ料理もできるんだな…」


本当になんでもできるやつなんだなと感心させられる。


明日もう一度お礼を言おう。


そう思った葵だった。




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