04 彼女に迫る影

勢いで飛び出して帰る途中は、ずーっと頭の中で彼女の笑顔がぐるぐるしていた。


あの笑顔は反則だろ。


学校でよく見かける、誰にでも見せる仮面を被ったような笑顔ではなかった。


「笑顔を見ただけで頭がまともに機能しないじゃんか…」


今日の夜にやろうとしていた事も、笑顔を見る前にしたことも忘れてしまった。


自分でもなぜこうなっているのかわからない。


彼女とお近づきになりたいわけじゃない。


俺はクラスの中では静かな方なので、輪の中心になるような奴とは関わりたくはなかった。


学校の彼女は、誰とでも話すことができるし、人当たりの良い奴だ。


だが、関わるのは表面だけで、彼女は絶対に誰にも心を許していない。


そんな気がする。


あとなんか忘れてる気がする。


「あっ…今日買ったおにぎりどこいったっけ」


やってしまった。


ぬいぐるみを渡すため、一度学校のバックと買った袋を机の様な所に置いたんだった。


俺は手ぶらで帰って気づかなかったのか?


学校のバックくらいは気づくだろ普通…。


まあいい、取りに行かなければ。





ここからスーパーまで、近いといっても十五分かかる。


十五分でスーパーに着くには、近道を通る必要がある。


一度繁華街を通ってから角を曲がるとめちゃくちゃ早い。


だから俺は現在繁華街を走っている。


何事もなくスーパーに着いて、買ったものを取って帰る。それが一番だ。


頼む…なにも起きないでくれ…!


神は俺の願いをめちゃくちゃ無視しやがった。


建物の影の様な所で、金髪のチャラそうな男三人が女子に声を掛けている。


なんか女子が煩わしそうな顔してるな。


ってあれ…なんか立花っぽい…?


腰のところまであるきらきらとした黒髪。


男女共々魅了してしまう容姿。


出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる体。


あれは絶対立花だ。間違いない。


「まーまー、つれない事言ってないで向こうで俺達と楽しいことしようぜ」


一番チャラそうな男が指す先は、人が来なさそうな路地裏。


そして別の男がガシッと彼女の腕をつかんだ。


「やめてください。あと私は用事があるので」


彼女は無理やり腕を振りほどいて用事があると伝えた。


「めんどくせーなー。良いから来いよ」


三人係で詰め寄っている。危ないなこれは。


俺はとんとん、と一番チャラそうな奴の肩を叩く。


「ああ?なんだよ」


「俺の連れに何してんの?」


「は?こいつがお前の連れ?なわけねえだろ調子乗んな」


いや、確かに容姿とかそういうのじゃつり合いませんけども…。


「いや事実なんだからしょうがねえだろ。俺達は用事があるんだ」


「誰がこいつの連れなんて関係ねーわ。今俺はこいつと用事があんの」


めんどくさいなあ…走って逃げるか。


「立花、走るぞ」


立花の手を即座に取って、全速力で走る。


こけてもらっちゃ困るけど、いざという時は抱えてやる。


「あっ!おい待てや!」


相手の言葉を無視して、それでも走り続ける。


相手は追いかけて来る気はあまりないらしく、ちょっとしたら姿は見えなくなった。


そして走っていた方向は、意図せずスーパーの方向だったみたいだ。


「ここまでくれば大丈夫だろ」


立花の手を離す。


立花は少し息切れをしているが、そこまで疲れた様子ではない。


「助けてくれてありがとうございます。助かりました」


感謝されてしまった。しかも少し笑顔だ。破壊力やばい。


「い、いや。困った時はお互い様でしょ?」


「そうですね」


「そのー…スーパーに荷物忘れてしまったんで取りに来たんだけど…不安なら一緒に帰るか?」


「まあ、またあの人たちに絡まれたら嫌ですし。お願いします」


一緒に帰ることになってしまった。頼む。誰も見ないでくれ。

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