8話

パン、と再び音を立てて扇子をしまう。

舞いすぎて扇子につけた長い布の飾りが少しばらけた。あとで修正しておこう。

『終わりました。はぁ、はぁ……』

その僕の呟くように言った声と、切れた息を整える音だけが異様に響く。

会場は、この世界で僕以外の人間がいないのではないかと錯覚させるくらい静かで、僕の立てる音以外は皆無だった。



切れた息が舞う前の正常値に戻る頃になって初めて、僕以外の立てる音が聞こえた。

その音は割れるような拍手の音で、ジョーなんかは泣いていた。


ジョーは涙を流しながら言った。

「私の可愛い可愛いユサ、君そんな才能があったんだね。

 踊っている時? 舞っている時というのかな?

 その時に、幻覚ではないと思うのだけどユサが蝶々に見えたよ。


 その周りに、いつしか桜が舞い降りてきていた。その光景は神秘的で一瞬息の仕方を忘れちゃった。良い物を見せてくれてありがとう。

 私は、これから君の才能を伸ばすために精一杯の支援をすることにする。

 応援しているよ、ユサ」


続けてミリーも言う。

「坊ちゃん、今俺は今すぐその所に行って抱きしめたいくらいだけど、

 まずは先に言わせてくれ。


 坊ちゃんは天才だ。この世で誰も生み出せない、生まれるはずのないような神秘的なオーラを持っている。

 ここに神から産み落とされた天使と言っても過言じゃないだろう。

 坊ちゃんは十歳とは思えないほどの才能を持っているよ、そしてその才能は坊ちゃんにしかないものなんだ。俺の言いたい事が分かるな?


 学力や能力なんて、努力すれば身につくものだ。

 でも才能やセンスは、努力したって身につかない。生まれ持ったものだからな。

 坊ちゃんにしか出せない味をこれからも大切にしてな。


 はぁ、

 これから世界へ羽ばたいていく美しい蝶々のユサへ、

 俺から大きな拍手を送るのとこれからの支援を約束します」


そう言って、ミリーは「頑張れ坊ちゃん!」と僕の方へと叫んだ。

「ちょっと、アンタもたまには良い事言うじゃない。

 見直したよ」

「だろ?」とミリーがドヤ顔をする。

「ごめん、前言撤回。全然良くなかった」

「おい~! いつになったら認めてくれるんだよ~」

「アンタが、筋肉ムキムキのおっさんじゃなくて、

 ユサみたいな綺麗で儚い美少年になって、ドヤ顔とかしないでありがとうございます。ってやさしく微笑んでくれるような良い男になったら認めるよ」


「理想高っ……」



『ははは……あ、でもジョー?』

僕がジョーとミリーの方に向かって大きく声をあげると、僕に呼ばれたジョーは返事をした。

「う~ん?」

『僕のこの舞踊ってさ、能力になるのかな?』


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