7話

そのため、扱いには気を付けないといけないが、

魔術の力でこれを保護することはできるらしい。


因みに、仕立てるときも保護すれば良いと僕は思ったが、

保護するとハサミを通せないらしい。なんともまぁ厄介な布だ。


だが、この羽衣織りは天使の羽衣にダイヤモンドを織り込んで織っているため白くキラキラと輝いているし、別名白の王様(今考えればどういう別名なのだと思うのだが)と呼ばれるベンタルを使って仕立てた衣装は、

それはそれは綺麗で、自他ともに認める美貌の僕にはすごく似合っている。はず。




蝶々をイメージしたデザインは、

これから踊る舞踊にピッタリだ。

仕立て屋のずっと笑顔なお姉さん、やっぱりすごいな。


仕立て屋のお姉さんに関心しながらも、

僕は緊張している自らの手をぎゅっと握り締めて舞台の上へと足を進めた。



床の質感や靴との相性、雰囲気などを自分ながらに確認していると、どこからか、パチパチと拍手が聞こえてきた。

観客席を見ると、二人がもう観客席の真ん中ぐらいのところに座って僕の方を見ていた。ちょっと恥ずかしいな。

それにすぐには始められないんだよね。

申し訳ないけど。



雰囲気や、踊ったときに音がなるかどうかなどを確認していく。

本当なら別にいらない作業ではあるけど、

初舞台だから後悔したくないし、初めて人に見せるから緊張している身体をほぐすためでもある。

緊張していると身体が強張って、うまく踊れないからね。


『よし……大丈夫かな。

 ジョー! ミリー! 無音で踊ってみても良い?』

そう、ちょっと遠くにいるジョーとミリーに叫ぶ。


「いいよ~! 好きな時に始めてね~!」

「リラックスしろな~!」

『うん! ありがとう!』


喉の奥、そしてその奥にある腹のそのまた奥深くから息を吐く。

お腹に入っている酸素をすべて抜いたら、苦しくなるまで息を吸う。

よし、大丈夫。

いつものようにやればいい。


頭の中でいつもエンドレス再生されてきた、一年間かけて構築した音楽、

「Cocoon」が自然に頭の中で流れる。

目を閉じたら聞こえてくる、僕の人生を変えてくれたメロディー。



身体が、早く舞いたいと疼く。

心の奥がパチパチと火花を上げて燃え上がる。

締め切ったはずの会場に、緩く風が吹く。

ほのかに熱を持った頬を、風がかすめる。

脳裏に、辛かった日々がよぎる。


頭の中で、自分の殻に閉じこもって春を待つ蛹が殻を突き破って出てくる様子が思い浮かぶ。

力強く、そして繊細に。


蛹が、これから始まる外の世界での危険にも立ち向かっていくその未来を描く瞬間を、僕の身体で表現しよう。

目を開く、集中しろ。そう言い聞かせる。


パン、と軽やかな音を立てて開いた扇子を握り締める。


この舞い、僕の勝ちだ。

ここのステージは、僕がもらった。



骨の髄まで、僕の心の叫びを響かせてやる、

そんな勢いで。


舞え、

回れ、

飛べ、

もっと軽やかにするんだ。

薄い生地で作った衣装の、意図的に長くした裾が風にのってはためく。


僕の周りに、桜が舞ってくる。

行け、そのまま飛ぶんだ!



『はぁ、はぁ、はぁ……』

飛んだ。

僕の手がけた愛しい蝶々が、僕の手から巣立っていく。

気を付けて行くんだよ。


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